なぜ人は、大切な人を傷つけてしまうのか 〜恋愛・DV・ストーカーに共通する心理と社会のメカニズム〜

金政 祐司

金政 祐司 (かねまさ ゆうじ) 追手門学院大学 心理学部 心理学科 教授専門:社会心理学

なぜ人は、大切な人を傷つけてしまうのか 〜恋愛・DV・ストーカーに共通する心理と社会のメカニズム〜
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恋愛や結婚は大きな幸福感や心の安らぎをもたらす一方で、苦しみや葛藤を生み出します。そして、ときにそれが大切な相手を傷つける行動までつながってしまうのはなぜでしょうか。 DVやストーカー事件といった痛ましいニュースに触れる機会は少なくありません。センセーショナルな内容には、つい「事件を起こすのは一部の特殊で攻撃的な人物であって、自分とは無縁の世界だ」と考えがちですが、社会心理学を専門とする本学心理学部の金政祐司教授は、「一部の特殊な人だけの問題ではありません」と語ります。引き金となりうるのは、私たちの誰もが抱える「不安」や「執着」、そして職場や地域社会での「対人ストレス」なのだとか……。

今回は、金政教授の最新の研究成果、そして親密な間柄で起こる精神的・身体的な暴力(IPV)の心理メカニズムと、現代社会で健全な関係を築くための実践的な方法について解説いただきます。

なぜ人は、親しい人を傷つけてしまうのか

なぜ人は、親しい人を傷つけてしまうのか
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DV加害者やストーカーは「特別な人」の問題?

(編集部)DVやストーカー事案は、世間一般では「性格的に異常な加害者が起こすもの」として見られがちですが、実際のデータや研究からはどう捉えられますか。

(金政先生)警察庁が発表しているストーキング事案の統計(※1)から見てみましょう。これによると、警察に寄せられる相談の多くは交際相手や配偶者(元を含む)からのものです。全く知らない不審者によるケースは10%以下の割合です。さらに、交際中にDVや過度な束縛が存在したケースほど、離別後のストーキング行為へと発展しやすいことが判明しています。

世間では報道の影響から「モンスターのような特殊な加害者」というイメージが作られがちですが、このデータを見ると、実は親密に過ごしていた相手が困った相手、恐ろしい相手に変貌しているケースが多いことが分かります。 そして、親密な関係における暴力は個人の資質だけで説明できるものではありません。もちろん個人の資質も要素の一つですが、なぜ「普通の人々」が親しいパートナーを傷つけてしまうのか。私自身、科学警察研究所に所属していた方との共同研究でストーキング現象を扱ったことをきっかけに、誰もが遭遇しうる「IPV」の背景に関する研究を進めています。

【※1 参考情報】 警察庁HP>統計「ストーカー・DV・児童虐待等」

パートナーから受ける心理的・身体的暴力「IPV」

(編集部)「IPV」は、DVやストーキングとどう違うのでしょうか。

(金政先生)IPV(Intimate Partner Violence)は「親密なパートナーからの暴力」を意味する言葉で、夫婦間のDVだけでなく恋人間のデートDV(DaV)、ストーキングなどを含めた包括的な概念です。日本ではまだなじみの薄い言葉かもしれませんが、内閣府の調査報告(2024年3月)(※2)によると、DVやDaVの被害経験は、配偶者からが約25.1%、交際相手からが約18.0%と報告されています。

(編集部)割合の高さを知ると、誰もが当事者となり得る身近な問題だと思えてきます。

(金政先生)そうなんです。そして、ここで重要なのが「暴力」の示す範囲です。殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、相手の行動を監視する、持ち物やスマホをチェックする、交友関係を制限する、激しく罵倒する、視線で脅すといった「心理的暴力」もIPVには含まれます。

たとえば恋愛関係にある二人がお互いを束縛する。それはある程度は自然なことです。ですが、問題は「関係のバランス」にあります。傍から見て奇異なルールや要求でも、双方が納得し、心理的なシーソーのバランスが保たれていればそれほど問題にならないことが多い。しかし、一方は相手のスマホの暗証番号を知り、行動を監視するのに、自分は何も明かさない……。そんなシーソーが偏ったような状態になることは望ましくない。 相手が嫌がっているにもかかわらず、過度な要求を押し付けると、二者間のバランスが不均衡となり、IPVへと変貌していきます。

(編集部)金政先生が特に重要視しているのが、この心理的IPVだそうですね。

(金政先生)心理的暴力は単体でも起こるものですが、身体的暴力の前段階であるケースも少なくありません。IPV全体の予防を考える上で心理的IPVの研究は非常に重要だと考えています。

【※2 参考情報】 内閣府男女共同参画局HP>「男女間における暴力に関する調査」(令和5年度調査)

親しい間柄の問題は、二人の“外側”にもきっかけがある?

親しい間柄の問題は、二人の“外側”にもきっかけがある?
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親密な関係で起こるDV、ストーキング……その要因に迫る

(編集部)IPVの要因について、最新の共著論文(「ダークトライアドは社会的排斥を媒介して恋人や配偶者への心理的暴力加害を予測する」心理学研究 97巻(2026)2号)では、二人をとりまく人間関係に着目されたそうですね。

(金政先生)従来のIPV研究は、その要因を「加害者の性格」か「当事者間のコミュニケーション」に求めるものがほとんどでした。 しかし、人間は二人だけの世界で生きているわけではありません。二人の関係以外にも要因があるのではないかと考え、科研費の助成を受けて「職場や友人関係など、当事者の関係外で生じたストレスや孤立がパートナーへの暴力に向かうのではないか」という仮説のもと、縦断調査を行いました。

私たちの中に潜むダークトライアドの特性とは

(編集部)調査結果をご紹介いただく前に、論文にある「ダークトライアド」という概念について教えてください。

(金政先生)他者を操作・攻撃しやすい3つの反社会的パーソナリティ特性の総称です。 具体的には、目的のために他者を手段として利用する「マキャベリアニズム(権謀術数主義)」、共感性が欠如し冷淡な「サイコパシー(精神病質)」、そして肥大化した自尊心と強い自己顕示欲を持つ「ナルシシズム(自己愛)」の3つを指します。

ここで押さえておきたいのは、ダークトライアド傾向は「持っている人」と「持っていない人」に二分されるものではないという点です。遺伝や環境がさまざまに影響し、誰もが度合いの強弱(グラデーション)はあるにせよ、ダークトライアド傾向を持っています。ただ、この傾向がより強い人の場合、人間関係で摩擦を起こしやすく、IPV加害傾向も高まることが判明しています。

(編集部)ダークトライアドの傾向とIPVとの関連について、どのような方法で調査されたのでしょうか。

(金政先生)恋人や配偶者がいる一般の参加者に調査へご協力いただき、ダークトライアド傾向や社会的排斥の経験、心理的IPVなどを継続的に測定し、それらの関連を分析しました。

対人関係のストレスが親しい人に向かうとき

(編集部)調査の方法と、明らかになったことを教えてください。

(金政先生)今回の縦断調査は、6カ月にわたって3回実施(初回と3カ月後と6カ月後)。同じ回答者を半年間追いかけた形で、かつ調査終了まで関係性が続いている人たちをターゲットに、ダークトライアド特性をもつ当人が社会的排斥を経験した場合、将来的に心理的IPV加害へつながりうるのかについて検討しました。

その結果、恋愛関係・夫婦関係の両方で、マキャベリアニズムとサイコパシーの傾向が強い人ほど、職場や友人関係など一般的な社会コミュニティで「社会的排斥(仲間外れ)」を受けやすく、そのストレスを経由してパートナーへ「心理的IPV」を行いやすくなるという分析結果が確認されました。

これは、ダークトライアドの人は冷淡さや他者操作的な振る舞いが目立つため、その性格が周りからの排斥を招きやすいことが関係していると考えられます。実際に排斥される場合もあれば、「不当に冷遇された」と受けとめる場合もあるでしょう。いずれにせよ外の社会で認められない不満や鬱憤を、自分より弱い立場、もしくは拒絶しないであろうパートナーを支配することで埋め合わせようとしていると考えられます。

(編集部)ナルシシズム傾向が強い人については、どうだったのでしょう?

(金政先生)今回の調査では、ナルシシズムについては、恋愛関係で心理的IPVの傾向は出ませんでした。そもそも社会的排斥を受けたという結果が出なかったんです。夫婦関係では社会的排斥を介してIPVへとつながっていたのですが……。 実はナルシシズム(自己愛)傾向が強い人は、自信家であったりセルフプロデュースが上手だったりと、自分を魅力的に見せることに長けている場合が多く、関係が浅い段階では魅力的な人に見えやすいんです。 そのため、そもそも恋愛関係を築くような若年層の時点では、周囲から社会的排斥を受けづらい、あるいは、社会的排斥を受けたとしても関係が固定化されていないので別の関係にさっと飛んでいけるために(調査でも恋愛関係以外の関係から排斥されなかった)、他の2つの性質とは異なる結果が出たのかなと推察しています。

社会・集団からの疎外感は、体の痛みと同程度!?

(編集部)外での対人関係の鬱憤が親しい人へ向かうという話でしたが、仲間外れにされるストレスはそれほど強力なのでしょうか。

(金政先生)私たち人間は、集団で生きる「社会的動物」として進化してきました。その結果、ちょっとした疎外感でも大きなストレスや恐怖を抱えることが数々の研究で示されてきました。有名な「サイバーボール課題(些細な社会的排斥を経験させる課題)」を用いた実験では、簡易なゲームで仲間外れにされただけで、脳内で「身体的激痛を感じたとき」と同じ領域が活性化することが分かっています。

さらに、排斥してきた相手に直接やり返せない場合、より弱い対象や反撃してこない対象へ怒りをぶつける「Displaced Aggression(置き換えられた攻撃)」が発生することも知られています。そう考えた場合、IPVとは、外の社会で負った傷や排斥の痛みを、家庭や恋愛という安全な支配空間で、パートナーを攻撃することで発散している行動だとも言えます。

(編集部)被害者からすれば完全な「とばっちり」ですね。

「見捨てられるかもしれない」が現実になる負のスパイラル

「見捨てられるかもしれない」が現実になる負のスパイラル
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もう一つの研究テーマ「予言の自己成就」もIPVに関係する?

(編集部)外部社会でのストレスに加えて、金政先生がもう一つ注目している研究テーマに「予言の自己成就」がありますよね。これはどのような現象で、IPVとどう結びつくのでしょうか。

(金政先生)「予言の自己成就」とは社会学者ロバート・K・マートンが提唱し、心理学でも広く知られる概念で、根拠のない単なる思い込みであっても、人がそれを「事実だ」と信じ行動することで、結果的に自分自身の行動がその思い込み通りの現実を作り出してしまう心理現象を指します。

親密な関係においてこれがIPVへつながるケースとしては、潜在的な加害側が「見捨てられ不安」を抱いたときに現れます。自分に自信がなく愛着不安が高い人は、「いつか相手に見捨てられるのではないか」という強烈な恐怖を常に抱えています。すると不安を解消したいがために、パートナーに対して過度な連絡要求や居場所の監視、試し行動といった心理的IPVを行ってしまう。そして、常に監視され、激しく束縛されたパートナーは、やがて耐えかねて去っていきます。この現象が怖いのは、離れていく相手を見て、加害側は「ほら見ろ、やっぱり自分は見捨てられた」と確信を深めてしまうところです。

(編集部)自身の過剰な不安から出た束縛行動が相手を追い詰め、しかもネガティブな予言を自らの手で現実化させてしまっているというのは当人にとっても悲劇ですね。

(金政先生)私が以前発表した共著論文(「愛着不安は親密な関係内の暴力の先行要因となり得るのか?──恋愛関係と夫婦関係の縦断調査から──」心理学研究 92巻(2021)3号)でも、対人関係における不安傾向が強い人ほど関係内でネガティブ感情を増幅させやすく、IPVに走りやすいことが実証されています。 つまり、IPVを行う人は、明らかに攻撃性が高そうな人とは限らないということです。むしろ自信がなさそうな人もIPVを行いやすい傾向にあるため、第一印象で見分けるのは難しいかもしれません。

心理的支配はどのように身体的暴力へと変わるのか

(編集部)不安傾向の高さから来る支配行動は、どのようにエスカレートするのでしょうか。

(金政先生)支配や暴力はある日突然始まるのではなく、段階を踏んで発展します。最初は「愛しているから」「心配だから」という名目の小さな制限から始まり、被害者側も初期は「愛されている」と錯覚して受け入れがち。しかし、一度受け入れてしまうと支配のボーダーラインはどんどん押し広げられ、暴言などの言語的暴力、外部との遮断、そして物理的な暴力へと次第に移行します。

(編集部)大切な相手に対して、追い詰めるような過度な支配欲を抱き、確認行動に向かってしまうのはなぜでしょう。

(金政先生)カップルや夫婦などのパートナーシップというものは、双方が合意のもとで「愛」という感情を理由にお互いの行動を縛り合う側面を持っています。そのルールや関係が脅かされそうになったときに不安や嫉妬が生じるのは、ある種当然のこと。身に覚えがある人も多いでしょうし、その感情を自分の中で、もしくは相手との話し合いで折り合いをつけるのはしごく一般的なことと思います。

ところが、そのバランスが取れないで相手をコントロールしようとする人もいる。そして独占欲や支配欲が強い人ほど、そのネガティブな感情を「相手を自分の監視下に置くこと」で解消しようとします。 関係破綻後のストーキングなども、別個の現象ではなく、「相手をコントロールしたい」という支配欲求が時期を変えて表れた、関係の延長線上の現象と見ることができます。

(編集部)心理的暴力は身体的暴力に比べて周囲から見えにくいですし、被害者側が周囲に助けを求めることも重要ですね。

SNS時代、強まる他者への執着。健全な関係を築くには?

SNS時代、強まる他者への執着。健全な関係を築くには?
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自分がIPV加害者となる可能性もゼロではない

(編集部)インターネットが普及する以前は、別れた相手との接点が自然に失われたように思いますが、SNS全盛の現代、離別した相手の近況へ容易にアクセスできることも少なくありません。こうした状況は、人々に潜む執着心に影響していますか?

(金政先生)執着を異常に増幅させる環境になっている側面はあると思います。 とある研究によると、失恋直後の人に元パートナーの写真を見せた際の脳の反応は、薬物依存症者がドラッグを猛烈に渇望している状態と非常に似ているとのこと。望まない離別は、脳の働きとしては「急激な断薬症状」と言えるかもしれません。 昔であれば時間と距離が記憶を風化させてくれましたが、現代はSNSを開けば相手の楽しそうな近況が目に入ります。その度に脳内の渇望スイッチが再起動し、激しい執着が蘇る……ということは想像に難くありません。

もし、自分が感情コントロールできない可能性があるとか、「この執着心は行き過ぎているかもしれない」と思い当たる人は、無用な加害衝動を招く前に、とにかくそういう相手の情報を見ないようにするのが良いでしょう。 対処法は「意思の強さに頼らず、物理的に刺激を遮断する環境を作ること」です。相手のSNSを見ない、アプリを削除するなど、視界に入らない環境を意図的に作ることが重要です。

IPV被害を遠ざけるカギ。大切な人と健全な関係を築くには?

(編集部)逆に、IPVの被害者にならないための自衛手段はありませんか? 対等で健全な関係を保つことが重要だと思うのですが。

(金政先生)IPVというのは、関係性の中に生まれるものです。その前提で重要なのが、「関係の初期段階における対等なラインの設定」です。ただし、気をつけてほしいことは、すでにパワーバランスが崩れた関係を修復するのは極めて困難だということです。既にIPVを受けているような場合は、自分だけでなんとかしようとせず、友人や肉親に相談したり、また、警察や配偶者暴力相談支援センター、法テラスといった法的・公的機関を利用したりするのが良いと思います。 ですので、これからお話しすることはあくまで関係の初期段階においての手段だということを覚えておいてください。

たとえば付き合い始めの時期に、相手が愛情を理由に理不尽な要求や束縛をしてきたとき――「俺より友達を優先するの?」「常に私の要求を最優先にしてほしい」など――、不機嫌になる相手を恐れて譲歩してはいけません。そこで折れてしまうと「愛情を盾に脅せばコントロールできる」と学習され、その時点で支配する/支配される関係が出来上がり始めてしまう。これは、その後の関係構築において、元に戻すのはとても難しいんです。 なので関係の初期段階において、嫌なことをしてくる、あるいは相手が過度な独占欲を発揮してきたときは、社会的ルールや既存の約束を優先し、毅然と「NO」を伝える。

好きな相手だからこそ、健全な関係性を築くためにも嫌なことにはきっぱりと意思表示することが大事です。嫌なことは受け入れず、互いの境界線を尊重し合うことこそが、IPVを遠ざけ健全な関係を維持する最大の防衛策と言えるでしょう。

まとめ

DVやストーカー事件のニュースに触れると、私たちはどこかで「自分とは別の特別な人たちの問題」と思いたくなってしまいます。ですが、金政教授のお話から、その背景にあるのは私たち誰もが抱えうる「孤立や孤独」や「見捨てられることへの恐怖」なのだと気づかされました。

外の社会で感じた孤独や不満が身近な相手へのコントロール欲求に変わってしまうこと、そして相手を失いたくないと焦るあまり、かえって相手を追い詰めてしまうケースがあること。また、対等な関係づくりのポイントは初期段階にあること。こうした心の仕組みを知ったことは、今後、自分自身や大切な人を守る知識となるのではないでしょうか。

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大塚 結喜

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プロフィール

金政 祐司

金政 祐司 (かねまさ ゆうじ) 追手門学院大学 心理学部 心理学科 教授専門:社会心理学

社会心理学、パーソナリティ心理学、発達心理学を中心に、恋愛関係・夫婦関係における不安や執着、社会的孤立と親密な関係内暴力(IPV)のメカニズムについて研究を進めている。

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