世界的なコロナウイルスの流行により、アメリカと中国の関係に緊張感が走るなか、台湾のリーダーシップが注目されています。2期目に入った台湾・蔡英文政権のリーダーシップから日本が学ぶべきものとは何なのでしょうか。元新聞記者で中国・台湾を中心とするアジアの政治や経済を研究している、経済学部の近藤伸二先生に話を伺いました。
今回は、台湾のコロナ対策とそれらを支えるキーパーソンがテーマです。
台湾のコロナ対応とは?
WHO未加盟での独自対策
(編集部)早速ですが、コロナを抑えこんだ台湾の戦略についてお聞かせください。
(近藤先生)まずは、コロナ禍が台湾にとってタイムリーであったということと、蔡政権がそのチャンスを生かした部分からお話します。
台湾では2002年~2003年にSARSが流行し多くの犠牲者を出しました。その教訓を踏まえ、感染症対策を進めていた結果が、今回のコロナ早期収束につながったと言えるでしょう。
蔡政権では、SARS対応で陣頭指揮をとった公衆衛生専門家の陳建仁氏が副総統を務めており、政権全体で危機感を共有し対応できました。さらに、行政院副院長(※1)である陳其邁氏も公衆衛生学の専門家ですから、非常に素早く有効な対応ができたのです。
台湾は、2019年12月末、武漢でのコロナウイルス発生から即座に直行便の検疫を開始し、専門家会議を招集しました。この極めて速い初動が全世界で評価されています。中国の情報を鵜呑みにせず、そしてWHOに加盟していないこともあり、独自の対策に沿って動いたことも大きいでしょう。加えて、「とりあえずできることから取り掛かり、うまくいかなければ軌道修正すればいい」という台湾人らしい気質も今回はプラスに働いたと思います。
(※1)副首相
世界に向けた発信力
(編集部)台湾の情報発信力についてはいかがでしょうか?
(近藤先生)中国と対峙して生き残るには、国際社会の支持を得ることが必要不可欠です。情報発信に生き残りがかかっていることを彼らはよく理解しており、日本や欧米諸国とのSNSをうまく使ったコミュニケーションが定着しています。
蔡総統は演説も淡々とし、メディア露出もあまり好まないタイプでした。しかし、2018年の統一地方選挙で惨敗して支持率が20%台にまで落ち込み、民進党主席を辞任する事態となったことをきっかけに、外国メディアのインタビューや会見後のぶら下がり取材にも応じるようになったのです。
このような取材対応を積み重ねる中で、情報を発信することの重要性を知り、もっと情報発信する必要があるとの自覚が高まったことで、世界に向けた発信がうまくできるようになったと言えるでしょう。
ヒーローは誰?
(編集部)異色の経歴持ち「天才」と称される唐鳳(オードリー・タン)IT大臣が注目されました。
(近藤先生)台湾の政治制度は半大統領制で、日本のように国会議員が大臣になることはありません。総統が任命した行政院長(※2)が、民間の専門家や官僚からプロフェッショナルを集めて組閣します。
台湾は個人の能力を重視し、「マイノリティに対する理解がある」社会です。台湾では2019年にアジアで初めて同性婚を合法化。このような背景もあり、30代でトランスジェンダーでもあるタン大臣が、今回の局面で力を発揮することにつながったとも言えるでしょう。
今回の対応で一番のヒーローは、日本の厚生労働大臣にあたる陳時中氏(衛生福利部長・中央感染症指揮センター責任者・元歯科医師)だと私は考えます。連日の記者会見で、相手が納得するまで何時間も対応し、温かく心にしみるような受け答えが印象的でした。「鉄人大臣」と呼ばれる一方、専門性にプラス政治的なコミュニケーション能力も兼ね備えた類まれな人材です。このような人材を大臣に起用していたという点では、蔡総統の適材適所が実ったと言えるでしょう。
(※2)首相
まとめ
今、世界で注目されている台湾のコロナ対策。コロナウイルスの早期収束の裏では、高いリーダーシップを発揮し、国を牽引してきたヒーローの姿がありました。一方で気になるのは、アフターコロナの台湾内での動きや、それに伴う外交への影響です。
次回は、今後台湾がどのような方向に進んでいくのか、そして、諸外国との関係はどう変化するのか。引き続き近藤先生に話を伺います。
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