トランプ大統領のいま。アメリカ大統領選挙を経て、世界はどうなるか?

追手門学院大学 経済学部佐藤 伸行

トランプ大統領のいま。アメリカ大統領選挙を経て、世界はどうなるか?
ドナルド・トランプ大統領(写真:shutterstock)

2020年11月3日にアメリカ大統領選挙が迫る中、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染、テレビ討論会での言動や郵便投票に対する不正発言、そして脱税疑惑など何かと話題に事欠きません。コロナ禍やブラック・ライヴズ・マター運動といった混迷を極める社会情勢のなか、選挙結果は世界にどのような影響をもたらすのでしょうか。今回は、時事通信社のベルリン支局特派員などを経てワシントン支局長を歴任し、著書『ドナルド・トランプ 劇画化するアメリカと世界の悪夢』では、トランプ大統領の人物像を詳しく分析した国際関係論が専門の経済学部の佐藤伸行先生の解説です。

 

トランプ政権の4年間、分断は深まったのか

トランプ政権の4年間、分断は深まったのか
佐藤先生の著書『ドナルド・トランプ~劇画化するアメリカと世界の悪夢』

トランプ大統領は「大化け」したのか?

(編集部)前回の大統領選挙前に発表された先生の著書『ドナルド・トランプ~劇画化するアメリカと世界の悪夢』では、「レーガンの劇場型政治の模倣」と考察されていますが、果たしてトランプ大統領はロナルド・レーガン(※1)のように前評判を覆す政権運営がこの4年間で出来たのでしょうか。

(※1)第40代アメリカ合衆国大統領。冷戦を終結に導き、内政・外政ともに「強いアメリカ」を前面に打ち出した政策を行った。1998年には功績をたたえ、名前が空港の名称にもなっている。

(佐藤先生)まず、トランプ大統領の対外的な戦略は、対決をもって「アメリカの敵」を明確に位置付けることにより「アメリカ的な強さ」を演出しようとしている点が挙げられます。イスラム、そして近年では中国を敵とみなし、徹底的に戦うという姿勢を見せることで、国内の保守勢力の求心力を強めるという戦略です。その対外政策はある意味「レーガン的」だと言えるでしょう。

1981年から2期に渡り米国大統領を務めたレーガンは、アメリカの敵を明確に定義し壮大な戦いを挑みながらも、欧州諸国とは同盟国としての関係性を保っていた点や、アメリカ人受けする彼のユーモラスなキャラクターもあって、前評判を覆す「大化け」をし、「歴史に名を残した」大統領だといえます。

一方でトランプ大統領は、レーガンの選挙戦略や政治手法を模倣しているものの、国内外で分断を深め、特に米欧同盟関係の中核であるドイツとの同盟関係を修復不能だと言われるほど悪化させたという点で、少なくともこの4年間の政権運営の手腕はレーガンには遠く及ばなかったと評価しています。

もうひとつ、キリスト教福音派(※2)にアプローチする手法はレーガンと類似しています。前回の選挙では福音派から圧倒的多数の支持を集めたことが、勝利を決定づけた要因のひとつだともいわれるように、トランプ政権はキリスト教福音派を重要な支持基盤としています。しかし、トランプ大統領を支える「岩盤支持層」は決して共和党を支持しているのではなく「トランプ的なもの」を支持しています。そのことがアメリカ国内の分断をより深めることになったと言えるでしょう。

(※2)プロテスタントの系譜を引くが、米国では宗教別人口の約4分の1を占め、主流派のプロテスタントを上回る最大勢力。トランプ大統領の強力な支持基盤で、2016年の大統領選では白人福音派の約8割がトランプに投票したとされる。

混迷を極めるアメリカ大統領選挙

混迷を極めるアメリカ大統領選挙
ドナルド・トランプ大統領(写真:shutterstock)

これまでのアメリカ大統領選挙と異なる点

(編集部)コロナ禍、ブラック・ライヴズ・マター運動をはじめとする人種差別に反対するムーブメントなど、前回の大統領選挙時と世相が大きく変化しています。今回の選挙はこれまでの大統領選挙とどのように異なるのでしょうか。

(佐藤先生)これまでのアメリカ大統領選挙との一番大きな違いであり、同時に最も懸念されているのは、史上初めて選挙結果を受け入れるかどうか分からない大統領が選挙に出馬している点です。これはアメリカ建国以来初めてとなる、選挙の前提が揺らぐという大きな問題です。

トランプ大統領は「選挙結果を受け入れるか」という問いに対し明言を避け、郵便投票については「不正確で不正にまみれた選挙」だと主張しています。通常であれば一方が敗北を認めることで選挙が終わりますが、今回はその通りに進まない可能性があります。司法の場で決着がつけられるのか、あるいは混乱に乗じで居座りを狙うのかなど、様々な想定がなされています。

また、ブラック・ライヴズ・マター運動への対応についても、アメリカ国内における分断をより一層深めているといわざるを得ません。例えばこのコロナ禍において、「マスクをつける・つけない」ということですら政治的シンボルとして争点化し、より目に見える形で分け隔て、人々の間に壁を作る。全体の最適化を図るのではなく、憎悪と不安を掻き立てることによって自らの岩盤な支持層を強化するという選挙戦略をとっています。

選挙結果を拒否する可能性により間接民主主義の前提が揺らいでいる点、そして分断を深める選挙戦略により社会に大きな混乱をもたらしている点。このふたつにより、過去に例を見ない大統領選挙になるといえるでしょう。

バイデン候補の選挙戦略

バイデン候補の選挙戦略
ジョー・バイデン氏(写真:shutterstock)

(編集部)対立する民主党のバイデン候補の政策や戦略、支持基盤について教えてください。

(佐藤先生)白人が圧倒的多数ではなくなりつつある今日のアメリカにおいて、「白人第一主義」を打ち出すことで支持層を繋ぎ止めているトランプ大統領に対し、民主党のバイデン候補は多様な価値観を基軸としています。国内的な政策としては格差の是正のために企業減税を修正し、社会福祉の観点からオバマケアの概念を受け継いでいくでしょう。日本にとって関心の高い対中政策については、中国に対し厳しい対応をすると予想します。

ただ、トランプ大統領と異なるのは、欧州各国との連携を深めていく点です。各国と協調しながら、中国に対しじわじわと圧力を加えてくという手法を取ると思います。中国は米欧の関係修復を恐れているため、バイデン政権の誕生を楽観視はできないでしょう。

一方で、バイデン候補は少しインパクトや迫力に欠けるという見方もあります。しかし今回の民主党の戦略は、一番票田が多く、中道で偏りのないバイデンを候補として選出し、ハリス副大統領候補でメッセージ性を補うという選択をしました。「中道の勢力を結集する」という戦略ですね。そういった意味では、社会主義的な趣向の強いサンダース議員ではなく、やはりバイデン候補が民主党にとっては最良の選択だったと思います。

トランプ大統領のコロナ感染は逆風となるのか?

(編集部)トランプ大統領の新型コロナウイルス感染。選挙戦終盤でのこの出来事は、逆風となるのでしょうか。

(佐藤先生)コロナ感染からの復活劇で支持が高まるのでは、という見方もありますが、私はトランプ大統領がコロナ対策における失策を自身で証明し、選挙にはマイナス要素になると思います。この新型コロナウイルスにより、全米で20万人以上も死者を出してしまったということは、トランプ大統領のコロナ対策は根本的に誤りだったということにほかなりません。

アメリカの大統領選挙というのは、討論会でのちょっとした言い間違いやミスですら、メディアやネット上で批判を受けます。そういった政治文化がある国で、「トランプ大統領はコロナに感染したけど、たった3日で復活を遂げたからすごい」と逆に支持が増えるという見方はあまりにもコミック的。アメリカ国民は、感染者数や死者数の多さだけでなく、経済的なダメージについても、冷静にコロナ対策がどうだったのかを評価し「コロナ感染は自身の無策の露呈」だと判断するのではないかと思います。

大統領選挙後の世界

大統領選挙後の世界
ニューヨークタイムズスクエア(写真:PIXTA)

日米関係はどうなる?

(編集部)新政権は日本にどのような影響をもたらすでしょうか。

(佐藤先生)どちらの政権になったとしても日本との関係は大きく変わらず、安全保障の基軸である日米同盟をさらに一歩前へと進める戦略を続けていくことが求められるでしょう。幸いトランプ政権とは良好な関係性を築いていますが、新政権とも関係悪化を避けるための調整、努力は続けるべきだと思います。

世界への影響

(編集部)戦後最悪とも言われる対中関係など、世界に対しても問題が山積みです。大統領選挙の結果は、世界にどのような影響をもたらすのでしょうか。

(佐藤先生)中国への対応については、トランプ大統領が再選を果たせば「中国包囲網」に代表されるように厳しい政策を維持することになりますが、欧州諸国は多少距離をおくことになるでしょう。トランプ政権では欧州諸国が今ひとつアメリカに同調しきれないどころか、逆に揺らいでしまっています。コロナ禍で各国の中国に対する考え方も変わりつつありますが、トランプ政権が続くと、欧州諸国にとって「中国」自体がアメリカとの外交カードとなり得るため、対中政策においてはまだまだ緩い対応が続く可能性が高いと見ています。

一方で、バイデン新政権が誕生した場合、欧州諸国との関係性が修復される可能性が高まります。中国の立場からすると、米欧の関係修復により国際的なタッグが強まり、中国に対する圧力が高まるのではないかという懸念が生じるでしょう。これは中国だけでなく、他の地域にとっても同様です。

これまで世界の秩序維持、安全保障面においては、NATOという枠組みを持って少なからず連携をしてきました。バイデン新政権になれば、その連携を再構築する方針を取るでしょう。国際社会、特に同盟国との関係性において「協調」が図られるという点がキーワードとなると思います。

まとめ

11月3日を目前に控え、これまでの大統領選挙とは大きく異なる様相がはっきりとしてきました。トランプ大統領は2016年から続く4年間の政策運営で、今回の選挙戦略においても「未知数」な点が多く、今までにはない大統領だということは間違いないでしょう。民主主義の大前提である選挙が行われ、新政権は無事に誕生できるのか。そしてアメリカは、世界は「協調」の道に進んでいくのか。世界中が注目をするアメリカ大統領選挙から、目が離せません。

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プロフィール

佐藤 伸行

佐藤 伸行 (さとう のぶゆき) 追手門学院大学 経済学部 経済学科 教授専門:国際関係論

1985年から2015年まで時事通信に勤務。ベルリン特派員、ウィーン特派員、ワシントン支局長など歴任。
2015年~ 追手門学院大学 経済学部 経済学科 教授

主な著書に『世界最強の女帝メルケルの謎 』(文春新書、2016年)、『ドナルド・トランプ~劇画化するアメリカと世界の悪夢』(文春新書、2016年)、『世界王室マップ』(1997年)、『世紀末宗教戦争マップ』(1996年)など

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