全学DL率99%。AIアドバイザーを備えた大学公式「OIDAIアプリ」、その開発背景に迫る

辻本 秀二

辻本 秀二 (つじもと しゅうじ) 追手門学院大学  現:大学事務局 大学政策部長 /元: CXデザイン局 基盤業務管理部長

全学DL率99%。AIアドバイザーを備えた大学公式「OIDAIアプリ」、その開発背景に迫る

デジタル化が進む現代、学生に向けて提供する大学が増えつつあるのが、大学公式アプリ。時間割管理やお知らせ配信、安否確認など学生生活を支えるさまざまな機能が搭載されていますが、その方向性や重要度は各大学によって異なります。

そんな中、追手門学院大学(以下、追大)の大学公式アプリ「OIDAIアプリ」は全学ダウンロード率99%、学生アンケートにおける満足度96%(2026年3月時点データ)。さらに、2026年春にローンチされたAIアドバイザー「OIDAI+」は、稼働開始からわずか約2カ月で1年生を中心に3,000人以上が利用し、総相談件数は2万件を突破するという実績を誇ります。(※)

学生に徹底的に活用されるプラットフォーム構築の背景にあるのは、「学生体験価値(CX)」を軸にした設計思想です。今回は、「OIDAIアプリ」とAIアドバイザー「OIDAI+」の独自性、そしてその背景にある追大の教育に対するアプローチについて、プロジェクトを推進した大学事務局大学政策部長(元:CXデザイン局 基盤業務管理部長)を務める辻本 秀二氏に話を聞きました。

【※関連サイト】 「OIDAI SMART CAMPUS LIFE」

「OIDAIアプリ」が学生に“使われる理由”はどこにある?

「OIDAIアプリ」が学生に“使われる理由”はどこにある?

アプリの特長とこれまでの進化

(編集部)大学公式アプリとしては非常に高いダウンロード率と満足度を獲得している「OIDAIアプリ」ですが、読者に向けてこれまでの開発の歩みを紹介してください。

(辻本氏)「OIDAIアプリ」は2023年9月にv1.0をリリースして以来、2026年7月現在までアップデートを重ねてきました。 初期のv1.0では、窓口機能や時間割管理、お知らせやFAQの閲覧といったポータルとしての基礎機能からスタートしました。その後、v2.0でQRコードを活用したパス機能(出席管理・イベントの入退場管理)や安否確認システムとの連動を実装し、v3.0で卒業生向けモードや教員側の時間割表示を追加。v4.0では入学前準備モードや学内施設予約機能を搭載し、v5.0で電子学生証への移行を実現させました。そして、2026年春のv6.0においてAIアドバイザー機能「OIDAI+」を統合した、というのが一連の開発の流れです。

2026年3月時点でダウンロード率99%、満足度96%という支持を得られているのは、入学前から在学中、そして卒業後まで、学生生活のステージすべてをカバーするインフラとして機能する存在をめざしてきたからだと考えています。

情報集約ではなく「学生体験の設計」が軸

(編集部)アプリ開発において最も重視した「軸」は何でしょうか。

(辻本氏)単なる「学内情報の機械的な集約」ではなく、「学生体験の設計(CX向上)」に焦点を当てることです。 開発段階で本学の学生のペルソナ(詳細なユーザー像)を設定し、彼らの学生生活や悩みのタイミングといったカスタマージャーニーを徹底的に描き出しました。 大学側の「こう発信したい」といった都合や、組織構造をそのままアプリ画面に並べてしまうと、学生にとっては使いづらいものになります。そこで私たちはそのアプローチをやめ、「学生にとって、最も体験価値が高くなるにはどうすればよいか」という学生起点の環境構築を最優先してきました。

その象徴がユーザー画面(UI)のデザインや情報の配置です。「追大生のリアルな一日」をベースに学生へのヒアリングを重ね、必要な機能を洗い出しました。 例えば、多くの学生が利用するシャトルバスの時刻表や休講・補講の情報は、トップ画面の最も目立つ位置に配置しています。 授業の出欠登録に必須の電子学生証も、アプリ起動からワンタップで表示できるように工夫しました。学生の日常に寄り添ったデザインの積み重ねが、活用されるアプリにつながっていると思います。

学生の声を反映するアジャイル開発

(編集部)こうしたデザインや機能をスピーディーに形にできた理由は何ですか。

(辻本氏)アプリの開発手法に、こまめなアップデートを重ねる「アジャイル開発」を採用し、パッケージ製品の流用ではなく独自のスクラッチ開発(ゼロからの自社開発)で進めた点です。 既存の大学向けパッケージ製品を導入する方が初期負担は少なくて済みますが、後からのカスタマイズに制限が出てしまうことが懸念点でした。 学生や教職員から改善案が出てもシステム仕様を理由に断念せざるを得なくなっては、真の個別最適化やCX向上は達成できないと考え、独自開発を選択しました。

またアジャイル開発の採用で、半期ごとに全学的なアンケートを実施し、リアルな声を即座にプログラムへ反映させる体制を築きました。これまで学生・教職員の声を聞きながら柔軟にアプリを改善しています。

さらに、単発のシステム導入で終わらせるのではなく、この手法を選んだことで、大学組織全体にも良い変化が起きました。「組織全体で継続的にアプリや学修環境を良くしていこう」という意識が教職員の間に浸透し、部署の垣根を越えてアイデアを共有し合う文化が根付きました。これが追大の学びの環境を急速に進化させる原動力になっています。

“便利”から“伴走”へ。「OIDAI+」がもたらす転換

“便利”から“伴走”へ。「OIDAI+」がもたらす転換

AIアドバイザー「OIDAI+」の導入

(編集部)今春リリースされたAIアドバイザー「OIDAI+」について、導入のきっかけや経緯を教えてください。

(辻本氏)情報へのアクセスの悪さや手続きの煩雑さによる学生の機会損失や充実した支援制度が十分に認知されず、意欲的な一部の学生しか情報を活用できていないという支援の格差が課題であると感じていました。そこで、学生の学修成果や行動履歴を集約した「統合DB」のデータを一人ひとりの成長へ還元すべく、生成AIを活用した個別最適な支援を模索しました。対話を通じて学生が自らの可能性に気づき、主体的に行動できる環境を整えることで、学生体験(CX)を向上させたいと願ったことが出発点でした

開発当初は、教職員の中で生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい嘘を出力する現象)」に対する懸念の声が上がりました。特に「履修登録」や「卒業要件」に関するアドバイス機能では、誤った情報によるリスクが議論の焦点となりました。 この課題に対しては、AIの回答精度を高める、出典を可能な限り明示するといった機能的な対応だけでなく、学生の生成AIに対するリテラシーとして、AIの出力はあくまで参考情報であり、情報の評価・最終判断の責任は学生自身が持たなくてはならないという、AIリテラシーの涵養を図りました。対面でのオリエンテーションや利用開始時のチュートリアル等での啓発機会を設け、学生自身が責任を持ってAIサービスをツールとして使いこなす設計にしています。

また、これと並行して、2025年に学長の発案で学部の垣根を越えた教員中心の「AI研究会」が立ち上がりました。 AI研究会での研究成果をもとに、2026年4月には学生たちが前向きかつ責任を持ってAIを使いこなせるよう、デザインされた「学生向け生成AI利用ガイドライン」を全学へ提示。多くの教育機関で生成AIの利用に慎重な姿勢が見られる中、本学は前向きに教育活用していく方針を打ち出しているのですが、こういった啓発の仕組みがあったからこそ懸念を乗り越えて、AIアドバイザー「OIDAI+」のリリースを迎えることができました。

履修・留学・就職まで横断支援。カギは圧倒的なデータの優位性

(編集部)他大学の一般的なAIサービスとの技術的な違いはどこにありますか。

(辻本氏)ベースにあるデータ基盤と、それによる「横断的な個別最適化(パーソナライズ)」のレベルに大きな優位性があります。 一般的な生成AIや大学のAIサービスは、公開されているホームページの文章やFAQのみを参照するため、画一的な回答になりがちです。一方、本学の「OIDAI+」は、学内のシステム基盤である「超統合データベース」と直結しているのですが、このデータベースは、以下の3つのデータ群を参照しています。

学内限定の非公開情報:学生一人ひとりへのお知らせ配信、開講科目の情報、過去の卒業生の就職先・内定実績データ、学内イベントのスケジュールなど。 ・個人の学修・行動履歴:学生一人ひとりの履修状況、成績(GPA)、出欠状況、社会人基礎力を測定するアセスメント(PROGなど)の結果。 ・特性データ:AIアドバイザーでのやり取りや対話を通じて蓄積された学生の現在の興味・関心といったパーソナルデータ。

こうした統合データを背景に、履修の相談から留学のタイミング、就職支援に至るまで、部署の縦割りを越えて学生一人ひとりの状況に合わせた個別最適な横断型のアドバイスが可能となっています。

「OIDAI+」最大の特長は9つの専門AIの連携。「答える」から「導く」へ

(編集部)それを技術的に実現している「マルチエージェント構成」とはどのようなものですか。

(辻本氏)一つの汎用AIにすべてを任せるのではなく、メインの「バディ・エージェントAI」の背後で「教務」「就職」「留学」など特定のテーマに特化した「9つの専門AI(エージェント)」が相互に連携する自律分散型システムを採用しています。

生成AIの特性として、性質の異なる膨大な情報を一つのプロンプトに詰め込むと情報の混線が起き、回答の正確性が低下する弱点があります。そこでテーマごとにAIを独立させ、専用の特化型データベースと個別プロンプトを作り込みました。複雑な質問に対しても、専門エージェントたちが協調して高い精度と専門性を持った回答を導き出します。

この構成は運用・保守の面でもメリットがあります。例えば教務規則に変更があった場合も「教務エージェント」のデータベースとプロンプトだけを修正すればよいため、システム全体を止める必要がなく、他の機能への悪影響も排除できます。開発のスピード感を落とさずに高い保守性と拡張性を両立できる設計です。

ベースにあるのは学生体験(CX)向上のための設計思想

(編集部)対話設計の根本にある思想について教えてください。

(辻本氏)すべての会話アルゴリズムの根底に、CX向上を具現化するための3つの開発原理をプロンプトとして組み込んでいます。

Inspire(インスパイア):質問への回答にとどまらず、次の行動やチャレンジのきっかけとなる提案を必ず含める。 ・Personalize(パーソナライズ):超統合データベースを活用し、その学生個人の現在のデータに寄り添った回答を生成する。 ・Bridge(ブリッジ):AIの中だけで完結させず、人間の教職員による支援が必要と判断した瞬間に、実際の学内窓口や専門スタッフへスムーズにつなぐ。

「何から手をつけたらいいか分からない」と迷っている学生が立ち止まってしまわないよう、身近な相棒としての体験を提供するための設計です。

アプリによる個別最適化は教育をどう変えるのか

アプリによる個別最適化は教育をどう変えるのか

学内データ統合による個別最適化

(編集部)データ基盤とマルチエージェントを組み合わせたAIアドバイザーの存在から、追大がめざす「個別最適なサポート」はどのように実現しますか?

(辻本氏)超統合データベースに蓄積された様々な学修・行動ログと、OIDAI+に入力する個々の興味・関心や卒業後の目標等に応じて、学内外に広がる在学中の多様なチャレンジの機会・選択肢を、最適なアドバイスとして提示し、挑戦を後押しすることをめざします。また、一般的な大学のイメージである画一的な指導ではなく、1万人規模の総合大学でありながら、一人ひとりの頑張りに寄り添うような、「デジタル×人的支援による伴走型」の教育環境の実現をめざします。

AIからの能動的な働きかけで、情報の届きやすさが改善

(編集部)システム側から学生へアプローチする仕組みもある点でも、相棒のような存在だと感じます。その点についてポイントを教えてください。

(辻本氏)「OIDAI+」は、学生の状況や特定の時期に応じてAI側から自発的に呼びかけを行う「能動的な発話の仕組み」を備えています。

例えば、新学期には「今日から履修登録が始まったよ!何に興味があるか教えてくれたら履修科目探しを手伝うよ!」といった内容をポップアップで語りかけます。 また、授業の欠席が一定回数以上続いた学生をシステムが検知すると、AIから「授業何回か休んでいるみたいだけど大丈夫?何か困ったことがあったら相談してね!」といったフォローのメッセージを送ります。

こういったアプローチにより、学生側は気軽に相談して良いのだという安心感を得られますし、重要なお知らせの見落としによる手続き遅れなどのトラブルも劇的に改善できたという成果が出ています。 アプリとデータベースをスクラッチで独自開発し、一体化させているからこそ実現できたメリットです。

「OIDAI+」の実績と、今後の課題・改善点は?

(編集部)最新の「OIDAI+」について、リリース後の利用状況と、見えてきた今後の課題について教えてください。

(辻本氏)2026年3月末のリリース直後、4月の1カ月間で約3,000人超の学生が利用し、相談件数は2万件を突破。時期的に、履修登録の進め方や新生活に関する疑問が大きな割合を占めていました。 一方で、匿名化されたビッグデータの分析や学生へのヒアリング等を通じて、「職員ならこうアドバイスできるのに」といった相談や、「確かにこのエリアの使い方はルールが明示されていないな」といった相談、「意外と学生はこういうことを知りたいんだ(例:自販機の場所)」といった相談等、今後の改善ポイントも明確になりつつあります。今後は、職員が持つナレッジの追加や、学生に周知されていないルールの明示、学生ニーズを踏まえた回答スコープの拡大等を、部署横断で取り組んでいきます。

AIと共につくる“新しい学生支援”とは

AIと共につくる“新しい学生支援”とは

追大が「AIで完結させない設計」を大切に考える理由

(編集部)アプリ開発はいったん大きな区切りを迎えたということですが、今後もアップデートは続いていきますね。その中で大切にしていく考え方について聞かせてください。

(辻本氏)「AIは学生の主体的な行動や挑戦を後押しするためのツールであり、目的そのものではない」という境界線を明確に持っています。

すべての教育や支援をデジタルの中だけで完結させるつもりはありません。 事務的な確認や手続きの複雑さといったストレスをAIの力で極限まで減らし、学生が本来の目的である学びに集中し、新しい挑戦に飛び込める環境を整えることが狙いです。 AIが定型的な対応を引き受けることで、教職員の側には時間的・心理的な余裕が生まれます。その結果、深刻な悩みを抱える学生への個別面談や進路選択へのアドバイスなど、人間にしかできない専門的で温かい対人支援にリソースを集中させることができるようになります。

(編集部)テクノロジーの進化が、人間によるサポートをより強固にするということですね。

(辻本氏)その通りです。効率化のシステムにとどまらず、学生一人ひとりの成長プロセスに伴走するパートナーとして、デジタルと人間が一体となって存在すること。これが本学の掲げる「伴走型支援」です。 超統合データベースという共通基盤があるからこそ、学生の小さなサインにいち早く気づき、AIを通じた初期段階での声かけから教職員による対面フォローまで途切れない支援を提供できるようになりました。この仕組み自体が追大の学びの環境の強みです。

(編集部)今後のさらなる進化に期待が高まります。大学の教育DXプロジェクトがめざす未来の姿について教えてください。

(辻本氏)「OIDAIアプリ」はシステムやデータの統合を進め、2026年春に「OIDAI+」を加えたことで、入学前から卒業までをトータルでカバーする次世代データプラットフォームとしての枠組みが完成。予定通りに一段落を迎えました。 しかし、これはプロジェクトの終わりではなく、新たな教育・学修環境のスタートに過ぎません。これからはプラットフォームを「作る段階」から、中身のコンテンツを充実させ使い勝手を高めていく「ブラッシュアップの段階」へとシフトします。このアプリやAIアドバイザーは、学内の各課の職員たちが部門の壁を越えて、未来の学生のために作り上げたものです。

今年度以降も利用ログや学生たちのリアルな声に耳を傾け、この環境を先進的かつ確かな追大の強みへと育て上げていきます。これからの本学の挑戦に、引き続きご注目いただきたいです。

まとめ

学生生活に欠かせない大学公式アプリ「OIDAIアプリ」、他大学に先駆けたAIアドバイザー「OIDAI+」、それらを支える「超統合データベース」といった先進的な取組みを続ける理由と、学生からの好評の背景に共通するのは、学生の声と徹底的に向き合おうとする大学の強い姿勢にありました。

学生・教職員の声を取り入れて、大学自らが未来の教育インフラを作り上げる。この未来志向と学生起点(CX)の設計思想こそが、追大が今、教育界において先進性を発揮している理由なのだと確信させられる取材でした。 今後のさらなる展開にご期待ください。

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宮﨑 崇将

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プロフィール

辻本 秀二

辻本 秀二 (つじもと しゅうじ) 追手門学院大学  現:大学事務局 大学政策部長 /元: CXデザイン局 基盤業務管理部長

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