大学生活と聞いて、皆さんはどのような光景を思い浮かべますか。 講義の休講情報を掲示板で確認し、履修登録は分厚い冊子とにらめっこ。手続きは窓口に並んで、レポートは大学のパソコン室で印刷して提出する――。こうした学生生活に覚えがあるという保護者世代の方も多いのではないでしょうか。
しかし、ここ数十年で大学生活は大きく変化しました。スマートフォンやeラーニングの普及で学ぶ環境そのものが進化し、「いつでも情報にアクセスできる」「必要な情報に迷わずたどり着ける」が当たり前になりつつあります。 なかでも追手門学院大学(追大)では、大学公式アプリ「OIDAIアプリ」とAIアドバイザー「OIDAI+」を中心に、学生一人ひとりが安心して学び、挑戦できる環境づくりを進めてきました。
今回は30年近く大学教育に携わり、現在はMATCH推進センター(※)長を務める宮﨑崇将先生に、昔と今の学生生活の違い、そして追大が提供する新たな学修環境についてお話を聞きました。
INDEX
大学生の今と昔。「大学あるある」はここまで変わった!
昔の学生は朝、学内の掲示板で休講を知った
(編集部)今や多くの大学が「DX」や「デジタル化」を掲げていますが、実際の学生生活がどう変わったのかは、外からは見えにくい部分もあります。まずは宮﨑先生自身の学生時代を振り返りながら、昔と今の学生生活の違いを教えてください。
(宮﨑先生)私が大学へ入学したのは1990年代後半で、振り返ると本当に何もかもがアナログでした。その頃は携帯電話もまだ一般的ではなく、PHSがようやく普及し始めた頃。今のようにメールやアプリで通知が届く時代ではありませんでした。 授業に関する情報は基本的に掲示板頼みです。休講や教室変更も、大学へ行って初めて知ることが当たり前でした。履修登録も紙の冊子を見ながら記入して、提出期限を確認し、控えも自分で保管。 もちろん、大学の教職員とのやり取りも対面が中心でした。「必要な情報を自分で探しに行くこと」「その場へ行って話をすること」が大学生活の前提だったのです。
(編集部)人とのつながりが大きな情報源だった時代ですね。
(宮﨑先生)友人同士で情報を伝え合い、授業で配布されたプリントをコピーさせてもらうこともよくありました。友達が取っている授業なら情報が入るけれど、一人で履修している授業は課題を見落としてしまう……なんて経験は周囲を含めてわりと耳にする話でしたし、キャンパスで友人に会えなければ連絡も難しく、「昼休みに食堂に行けば会えるかな」と予想して探しに行くこともよくありました。 こういったエピソード、同世代の方なら「そうそう」と思っていただけるのではないでしょうか。
(編集部)当時のキャンパス風景が目に浮かぶようです。以前は、勉強のスタイルも大きく違ったかと思います。
(宮﨑先生)かなり違いました。私の学生時代はWindows95が登場して間もなくで、パソコンを購入する学生も増えてきた頃。とはいえ、インターネットは今ほど身近ではありませんでした。 レポートを書くときも、まず紙の教科書を読み、図書館で参考文献を探し、パソコンのワープロソフトで文章を作成します。そして大学や自宅のプリンターで印刷し、研究室前の提出ボックスへ持って行く。これが一連の流れでした。 しかも、パソコンの機種が違うだけで文字化けしたりレイアウトが崩れたりすることもあって……締切前にはコピー機やプリンターに長い列ができていたのを思い出します。 今から振り返ると、それだけでかなり時間を使っていましたね。
(編集部)現在の学生生活は、その頃と比べると大きく変わっていますね。
(宮﨑先生)今はスマートフォンがあれば、調べものからレポート作成、提出まで完結します。各大学でLMS(Learning Management System:学習管理システム)の導入が進んでいて、eラーニングが充実しています。すると自宅からでも課題提出ができますし、学内プリンターにネット経由で印刷指示を出すこともできます。
休講情報もアプリやメールで通知が届きますから、休講を見落とすケースも少なくなりました。図書館の開館時間やパソコン室の利用時間に縛られることも少なくなりました。学びたいタイミングで学べる環境になったことは、昔と比べて大きな変化だと思います。
教員にとっても変化した教育環境
(編集部)教員側から見て、便利になったと感じることはどんなことですか?
(宮﨑先生)学生の状況を把握しやすくなった点でしょうか。 例えば出席確認です。以前は出席カードを回収したり、一人ずつ点呼したりしていました。受講者数が多いと、その作業だけでもかなりの時間がかかっていました。
それが現在は電子学生証で出席登録を行える環境が増えてきたことで、教員側は記録されたデータを確認するだけでよく、授業時間を有効に使えるようになりました。 また、小テストもLMS上で実施することもできます。採点も効率化できるようになったので、学生がどこでつまずいているかをすぐ把握できるようになりました。
大学のDXというと学生向けサービスに目が向きがちですが、教員の業務効率化にも大きく役立っています。その結果として、学生と向き合う時間をより多く確保できるようになったことは、大きな意味があると感じています。
便利になった一方で新しい課題も?
(編集部)ここまで聞くと、大学生活はずいぶん便利になったように感じます。
(宮﨑先生)その通りですが、一方で新しい課題も出てきました。 各大学が利便性を高めるべくさまざまなシステムを導入し、履修登録や出席確認、施設予約、安否確認などそれぞれ便利になっていたのですが、問題は「全部別々だった」ということです。 学生からすると、「これはどこで見るんだろう」「あの申請はどのシステムだったかな」と迷ってしまう。また、お知らせも部署ごとに発信されるため、本当に重要な情報が埋もれてしまうこともあったりして……。 デジタル化は進んでも、「学生にとって本当に役に立つか」までは十分に実現できていないというのが課題でした。
(編集部)「便利であること」と「学生のために役に立つか」は別の話だったわけですね。
(宮﨑先生)現在、多くの大学では散らばっていたサービスを一つの入口へ集約する「ポータル化」が進んでいます。学生は複数のシステムに振り回されるのではなく、一つの入口から必要な情報へアクセスできるようになる。これが、今の大学に求められている方向性だと思います。 そして本学も、この考え方をさらに発展させながら、学生生活をより快適にする環境づくりを進めてきました。中心となっているのが、追手門学院大学公式アプリ「OIDAIアプリ」です。
スマホ一つで変わる学生生活。「OIDAIアプリ」でさらに快適に
やるべきことも、したいことも、迷うことも。アプリを開けば先が見える
(編集部)「OIDAIアプリ」は、2023年9月に正式リリースされた追手門学院大学の公式アプリですね。追大生は実際にどのようにアプリを活用しているのでしょうか。
(宮﨑先生)一日の流れで見ると、とても分かりやすいと思います。 朝、大学へ向かう前にスマートフォンでアプリを開き、時間割を確認するところから一日が始まります。 登校時にはアプリのトップ画面をタップするだけで乗りたいバスの時刻表をすぐ確認でき、教室へ着いたら電子学生証の機能を使って出席登録を行います。 講義の合間には自習用の施設を予約したり、大学からのお知らせを確認したり、分からないことはFAQなどでアプリから検索できます。そして放課後には部活動へ向かう前にバスの時刻をアプリで確認。 以前のように「あの窓口はどこだったかな」とキャンパスを歩き回る必要はありません。 こんなふうに、学生生活のさまざまな場面が、一つのアプリの中で自然につながっているのです。
(編集部)電子学生証や施設予約など、一つのアプリにまとまっているとは便利です。
(宮﨑先生)そうですね。学生にとっては、「何ができるか」だけではなく「迷わず使えるか」が重要です。 例えば電子学生証機能では、紙の学生証を持ち歩かなくても本人確認や出席登録ができますし、さまざまな申請にも活用できます。 また、大学からのお知らせも、一人ひとりに必要な情報が見やすい形で届くよう工夫されています。従来のように大量のお知らせの中から自分に関係する情報を探す必要がなくなり、学生生活そのものがずいぶんスムーズになっているはずです。
これが時代の最先端。AIが学生の「相談相手」に
(編集部)「OIDAIアプリ」はアップデートを重ね、2026年春からはAIアドバイザー機能も加わりましたね。
(宮﨑先生)いま、本学が先進的な取り組みとして力を入れているのが、AIアドバイザー「OIDAI+」です。 最近、生成AIに関する話題を耳にする機会が増えましたが、本学がめざしたのは「何でも答えてくれるAI」ではありません。学生が迷ったとき「次に何をすればよいか」を一緒に考える、相棒(バディ)としての存在です。
例えば、「履修登録がよく分からない」「留学に興味があるけれど何から始めればいいだろう」「就職活動を始めたいけれど不安がある」といった相談にも応えます。 もちろん、「学内Wi-Fiの設定方法は?」「コピー機はどこにあるの?」といった日常的な質問もできます。 大学生活では、教職員へ相談するほどではないけれど、少し気になることが意外と多いものですが、そんなときに、気軽に相談できる窓口が身近にあることは、学生の安心感につながると思います。
さらに「OIDAI+」は、専門的な相談や個別事情への対応が必要な場合には教職員へつなぐ設計になっています。AIだけで完結させるのではなく、人による支援へ橋渡しする役割も担っているんです。この考え方は本学が教育DXを進める上で、大切にしているポイントです。
「便利」の先にあるOIDAIの教育DX
めざすのは「便利なツール」ではなく「快適な学修環境」
(編集部)ここまでのお話から、追手門学院大学のアプリが単なる便利ツールではないことが分かってきました。アプリやAIアドバイザーを通して追大がめざす未来とは、どのようなものでしょうか?
(宮﨑先生)私たちがめざすのは「便利なツール」をつくることだけではありません。 アプリやAIアドバイザーの開発背景には、「学生が主体的に学び、自分らしい学生生活を送れる環境を整える」という教育DXの考え方があります。
例えば以前は、学生が情報を探し回り、窓口を調べ、必要な手続きを理解すること自体に多くの時間を使っていました。もちろん、それも大学生活の一部だったかもしれません。しかし、学生が本当に時間を使うべきなのは、学びや研究、課外活動、人との出会いなど学生生活ならではの経験ではないでしょうか。 私たちは、事務的な負担をできるだけ減らし、その分だけ学生が調整する時間を増やしたいと考えています。
学生体験(CX)を中心に据えた環境づくり
(編集部)その考え方が「学生体験(CX)」という言葉につながるわけですね。
(宮﨑先生)CXとはCustomer Experience、つまり「顧客体験価値」のことです。 本学では“大学が提供したいサービス”ではなく、“学生がどのような大学生活を送りたいのか”という視点を最優先に考えて環境を整えてきました。
「OIDAIアプリ」も「この機能を搭載したい」という大学側の都合ではなく、学生へのヒアリングを重ね、「実際によく使う機能は何か」「どこに配置すれば使いやすいか」を繰り返し検討し、反映しています。 バスの時刻表をワンタップで見られる位置に置いたり、休講情報を見逃しにくくしたりと、一つひとつは細かな工夫ですが、その積み重ねが利用者の快適さにつながっています。
AIを利活用する力も、これからの学びの一つとなる
(編集部)DXを進める本学ですが、生成AIについても授業などで積極的な利活用を推進する方針ですよね。
(宮﨑先生)2026年4月より本学では、全学生を対象に生成AIツール「Gemini」や「NotebookLM」の利用環境を公開しました。ただ、「使えるようにしました」で終わりではありません。 AIは便利な技術ですが、すべてを任せるものではありません。特にまだまだ「ハルシネーション」と呼ばれる誤情報の提供がどうしてもリスクとして存在しますし、「どのように使えば学びが深まるのか」「どのような点に注意すべきか」を意識して、自分で情報を確かめて、判断する力も同時に育てることが重要だと思っています。
そこで私たちは、学生のAIリテラシーを高めるために、教員が中心となって検討する「AI研究会」を立ち上げ、生成AIを教育でどのように活用するか議論を重ねています。 生成AIの基礎から将来展望、教育面での課題まで幅広く研究し、その成果を新たな教育方針の検討に生かしています。また、学生が適切に生成AIを活用できるよう、「学生向け生成AI利用ガイドライン」も制定しました。
(編集部)AIツールが普及すると、人との関わりが減るのではという不安を持つ方もいるかもしれません。
(宮﨑先生)そういった不安を持つ方の気持ちも分かりますが、私たちはむしろ逆だと考えています。「OIDAIアプリ」や「OIDAI+」を提供する上で私たちが大切にしているのは、「伴走型支援」というあり方です。
AIが事務的な問い合わせや日常的な質問に対応することで、教職員は一人ひとりの学生と向き合う時間をより確保できるようになります。例えば、急な家庭の事情で奨学金制度の利用がしたい、進路に悩んでいるといった学生には、やはり人による支援が欠かせません。AIはその入り口となり、必要に応じて教職員へつなぐべき存在でもある。 学生をAIに任せるのではなく、学生一人ひとりに寄り添うための新しい仕組みとして発展していくことが望ましいと考えています。
相棒はAI。そんな学生生活で身につく力とは?
(編集部)ますます便利になった追大での学生生活。宮﨑先生は、この先進的な環境で学ぶ学生に、どのような社会人になってほしいと考えていますか。
(宮﨑先生)生成AIは、もはや社会で当たり前に使われる存在となりました。だからこそ「AIを使える」だけではなく、「AIを活用して自分らしい挑戦ができる」ことが大切になります。
生成AIを導入する企業が増えている今、AIを使いこなして効率的な仕事ができることが社会人として求められる基本的なスキルの一つになりつつある。そういった現状を考えると、「AIを活用することでこんなことができた」と言える環境は、就職活動の時にもアピールしやすいポイントになります。
「OIDAIアプリ」や「OIDAI+」は、授業や課外活動、留学、就職などの場面で、一人ひとりの学生に寄り添いながら、新しいチャレンジを後押しすることを目的としています。 大学時代にこうした環境を使いこなし、「AIを活用しながら自分で考え、行動した経験」は卒業後にも必ず役立つはずですから、学生たちにはこの環境を通して、新しい時代を切り拓く人になってほしいと願っています。
まとめ
かつて掲示板や紙の書類が当たり前だった大学生活は、スマートフォンやAIの普及によって大きく姿を変えました。 いま追大がめざしているのは、単に便利なツール開発ではありません。学生が必要な情報へ迷わずたどり着き、学びを通じて挑戦し、必要なときには適切な支援へたどり着ける環境を整えること。そのために教育DXを推進し、大学公式アプリ「OIDAIアプリ」とAIアドバイザー「OIDAI+」を中心とした学修環境を構築しています。
では、このアプリやAIは、どのような設計思想のもとで生まれ、どのような開発体制によって進化してきたのでしょうか。次回の記事では、その開発の裏側にある教育DXの思想と、その先進性について詳しくご紹介します。ぜひ、あわせてご覧ください。
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