新型コロナウィルスによる世界規模の移動制限で、グローバル化の流れに変化が生まれています。前回、アフターコロナ時代の自治体に求められる海外戦略について話を伺った、地域創造学部の藤原直樹先生に引き続き解説してもらいました。
前編の記事はこちら
今回は、リモート化に伴う自治体戦略とグローバル化に向けた人材育成がテーマです。
INDEX
進むリモート化と自治体戦略
オンラインのつながり
(編集部)新型コロナウィルスの影響で、状況に変化はありますか。
(藤原先生)私自身も海外出張がすべてキャンセルになってしまったのですが、今は逆に海外とのウェビナーやテレビ会議の機会が非常に増えています。部屋にこもりながらも、前よりも海外とつながっている感覚です。
コロナウィルスの影響で人々が分断されているという意見もありますが、こうしてオンラインでのつながりが増えているのも事実です。これまでは、テレワークはどうしても必要な時の手段でしかなかったわけですが、コロナウィルスの影響で今や主役になりつつあります。テレワークの拡大で、地方が海外とつながる可能性も伸びているのではないでしょうか
リモート化によるコミュニケーションの変化については、国際教養学部の高垣伸博先生が詳しく話されている記事があるので、こちらも参考にしてください。
ワーケーションの受け皿としての地方のサテライトオフィス
(編集部)これから社会はどのように変わるのでしょうか?
(藤原先生)感染が収束すればある程度は元に戻ると思いますが、リモート化の流れは続くと思います。
既にワーケーション※ の動きも拡大しています。和歌山県の白浜は、ハワイのワイキキと姉妹ビーチ提携を結び、観光が目玉の地域ですが、保養所だった施設がバブル後にたくさん余ってしまいました。その施設をレンタルITオフィスとして活用しはじめたのですが、5年ほど前にアメリカの有名企業が入居すると日本の企業もどんどん入居するようになり、最近3つ目の施設整備が決定したところです。この事例からみても今後、地方のサテライトオフィスがさらに増えていくでしょう。
※ワーケーション(Workation)とは、仕事のワーク(Work)と休暇のバケーション(Vacation)を組み合わせた造語。
コラボレーションオフィス
(編集部)変化の中で、国や自治体にはどんな方針が求められるのでしょうか?
(藤原先生)国に求められるのは、まず光ファイバーのような通信環境をはじめとするインフラ整備。労働時間の管理や、ハンコをどうするかといったような全国的なルールづくりも必要です。
地方自治体は、テレワーカーを2種類に分けて考えるべきでしょう。1つ目は、企業務めで地方に転勤してくる人たち。企業務めのテレワーカーには、サテライトオフィスやテレワークセンターといった施設が必要です。企業誘致といえば工場の誘致が主でしたが、今後は大企業のサテライトオフィスを誘致する方向に変わっていくでしょう。
2つ目のテレワーカーは、自営業やフリーランスです。すでに始まっている取り組みとして、那覇の「コワーキングオフィス」があります。この施設は、地元の会社の人や県外企業から転勤してきた人、そしてフリーランスの人が同じ場所で仕事をすることで、おもしろいコラボレーションが生まれることを期待して作られました。フリーランスのテレワーカーたちを呼び込むためには、彼らが働きやすい環境づくりが求められるでしょう。
国際化戦略と人事システム
新しい時代のキャリア育成
(編集部)先生が実現を期待する未来の日本の姿について聞かせてください。
(藤原先生)一人ひとりの個性を見出し、クリエイティブな社会になることが望ましいです。口先だけのグローバル化ではなく、多様性を認められるよう日本人の意識改革がされることを期待しています。
日本では、大学を卒業して就職したらまず現場を経験して、それから異動を繰り返しながら管理職に昇進していくというのがキャリアの成功パターンでした。特に行政機関はジェネラリスト志向で、だいたい3年ごとにまったく別の部署に異動していきます。これだと、一人ひとりの専門性が育ちません。
また海外だと、自治体の職員は専門性を軸にして自治体や国の機関を渡り歩いています。このように専門職として組織を移っていくような働き方が日本でも広がればいいですね。組織を移る選択がしやすくなれば、パワハラやセクハラも回避できると思います。
イノベーションと個の力
(編集部)未来に向けて、大学での人材育成で心がけていることはありますか?
(藤原先生)先日、ゼミ生たちとオンライン飲み会をしたんです。その時に、コミュニケーション力の差はオンラインでも現れるということを痛感しました。テレワークでも個人の能力の差は明らかでしょう。ですから、そうした環境で必要になるプレゼンテーション能力や論理的に話す能力を重点的に鍛える必要がありますね。英語も今後一層大事になると思います。
イノベーションを起こすためには、競争の中でアイデアを出していく必要があります。そのためにも、コロナ後の時代にはいかに「個の力」を高めるかが重要になってくるでしょう。そうした環境下で、働き手のモチベーションを維持し、組織としての集団学習の能率を上げるためにも、個人の本質的な価値に重きを置く人事システムや評価制度への変革が強く求められます。
まとめ
民間企業から自治体、そして大学へと活躍の場を変えてきた「ひとり産官学連携」の藤原先生。まさにアフターコロナの世界で求められる働き方を体現しています。企業がイノベーションを起こし、自治体のサポートのもとで海外へ進出する流れが加速するよう、テレワークやワーケーションでもキラリと光る個の力を備えた人材が育つ社会への転換が望まれます。