国連の定める2020年の国際家族デーのテーマは「発展のなかの家族」でした。世界では同性婚の合法化が進み、多様性が認められる社会の中で家族の形も大きく変化しています。前回、リカちゃんママなどを例に、家族の移り変わりについて解説いただいた、子どもや家族の問題をジェンダーの視点から研究している経済学部の栗山直子先生に引き続き話を聞きました。
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今回は、多様性が認められていく中で変化する、家族のあり方がテーマです。
多様性が認められる時代の家族
家族は自分で選ぶ時代へ
(編集部)世界的に、家族の形はどんどん多様化していますね。
(栗山先生)はい。日本では1980年代から、終身雇用のような核家族を支えていた社会のシステムが崩れはじめました。近代家族モデルがゆらぎ、家族の多様性が高まってきました。すでに核家族は少数派で、標準的な家族形態とはいえません。
血のつながりのない家族、そして男性による子育てをテーマにした「うさぎドロップ」など、家族の多様化がみえるアニメもたくさん出てきていますね。「夏の庭」、「ケロロ軍曹」、「サマーウォーズ」、「リロ&スティッチ」などの作品の主人公は、様々な形で結ばれた家族で育っています。多様な家族のあり方を認める社会の動きの中で現れてきたのでしょう。
15年ほど前、日本家族学会で「ペットは家族か?」という激論が起きました。本人が家族と認識しているなら家族だという結論になり、今では共通認識に。
D.W.プラース(アメリカの文化人類学者)は、『家族とは同じ船に乗り合わせた道連れのようなものだ』として、家族を「コンボイ(convoy)」と表現しました。誰が家族かは、血縁や種族でなく選択によって決まるのです。
新たな家族の形が少子化防止に!?
(編集部)先生はニュージーランドでも研究をされていますが、海外ではどのような動きがありますか?
(栗山先生)ニュージーランドには、「デファクト」といって、籍を入れずに婚姻と同じ税制上の優遇を受けられるパートナーシップ制度があります。カップルが同性か異性かは問われません。
ニュージーランドのアーダーン首相も、パートナーとは「デファクト」の関係です。同じようなパートナーシップ制度は世界で導入が進んでいますが、既に導入されているフランス、デンマーク、スウェーデンで少子化が緩和されていることから、少子化の解消策としても期待されています。
(編集部)少子化を食い止めるためにも、子育てしやすい社会への転換が求められますね。
(栗山先生)そうですね。日本では、企業による家族の丸抱えが長く続いたために、行政や地域社会による子育て支援が整っていません。
政府は『育メン』を推奨していますが、子育ては家族にしか頼れないということでしょう。いま日本では6人に1人が一人暮らしで、結婚の社会的な位置づけが下がっています。多様なライフスタイルを選ぶ人が増えていますので、時代に合った新しい社会システムが必要です。
自分と違う価値観に出会ったとき
(編集部)社会の刷新に向けて人々の意識を変えていくためには、何が必要でしょうか?
(栗山先生)女の子にはドールハウス、男の子にはヒーロー人形を買い与えるという形で、未だに小さい頃から性別役割分業がされています。
学校でも「クラス委員は男子」がという意識は一部で残っています。私のゼミでも、リーダーを決める時にくじでひとりの学生(女子Aさん)が選ばれたのですが、もうひとりの学生(男子Bさん)が「さすがに女子にやらせるわけには」と反対。結局、彼女は副リーダーになりました。若い世代でもジェンダー意識が再生産されているのだなと感じましたね。
これから多様性を認める社会に変えていくためには、寛容さを高めることが重要です。多様性と寛容さはセット。日本は、寛容さのない社会になってきているように思います。家族に正しいひとつの形はありません。自分と違う考えに出会っても否定せず、視野を広げることで、多様な価値観を認める市民意識を育成していく必要があります。
まとめ
拡大家族から核家族、そして多様な家族へ。社会の変化とともに家族の形は姿を変えてきました。かつての家族モデルにとらわれたままの意識、そして制度を新しい時代に向かって変えていくために、「自分と違う考えに出会っても否定しない」寛容さを忘れずに、日々過ごしたいですね。