【家族像の定義は人それぞれ・前編】歴代「リカちゃんママ」に見る家族像の変化

追手門学院大学 経済学部栗山 直子

【家族像の定義は人それぞれ・前編】歴代「リカちゃんママ」に見る家族像の変化
「リカちゃんママ」の変遷について話す栗山先生

国連の定める2020年の国際家族デーのテーマは「発展のなかの家族」でした。世界では同性婚の合法化が進み、多様性が認められる社会の中で家族の形も大きく変化しています。今回は、子どもや家族の問題をジェンダーの視点から研究している、経済学部の栗山直子先生です。アニメ作品やリカちゃんママといった身近な題材を通して、家族の移り変わりたどりました。

アメリカから輸入した幸せな家族の形

アメリカから輸入した幸せな家族の形
(写真:PIXTA)

同じ家で働く全員が家族

(編集部)まず、前近代型の家族の特徴を教えてください。

(栗山先生)「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…」という昔ばなしのフレーズは有名ですよね。これは現代人が作ったもので、昔の日本の家族の姿とは違います。

山は危険な場所であり、1人で行くことはなく、性別での役割分担もありませんでした。昔の日本の家族は一般的に農業を営んでおり、稲刈りには人手が必要で、大勢で一つの集落に集まり、公私の境があまりない「職住一体型」の暮らしでした。また農村では、使用人も含めて「同じ家で働く全員が家族」と考えられており、男女関係なく年齢や体力に応じて役割分担されていたのです。

アメリカドラマの素敵な家族

(編集部)家族の形が近代型に変化した背景を教えてください。

(栗山先生)理想の家族モデルは、アメリカ型の家族の形の輸入によって生まれたものです。「クレヨンしんちゃん」(※1)の家族ような形ですね。

(※1)臼井儀人の国民的漫画作品。幼稚園児のしんちゃんこと野原しんのすけファミリーを中心としたコメディー。

1950年代からアメリカのテレビドラマが日本に入ってきました。当時、日本人は豊かなアメリカに憧れ、ドラマの中の家族を「幸せな形」としてとらえました。サラリーマンの夫と美しい妻、2人の子ども。これが理想の家族スタイルとしての「核家族」です。時代は高度経済成長期、急な転勤もあるサラリーマン家庭として、すぐに荷物をまとめて動ける最小規模の家族は都合が良かったので、国が推進しました。理想の家族としての核家族は、自然に生まれたものではないのです。

リカちゃんママと憧れの家族

リカちゃんママと憧れの家族
(写真:PIXTA)

男は仕事?女は家事?

(編集部)近代家族モデルの特徴を教えてください。

(栗山先生)日本の近代家族は、社会学者の落合恵美子先生がまとめられた8つの特徴(※2)によって説明できます。

(※2)家内領域と公共領域の分離、強い情緒的関係、子ども中心主義、性別役割分業、集団性の強化、社交の衰退とプライバシーの成立、非親族の排除、核家族。

家庭のことは家庭で完結すべきという規範が生まれ、母と子が社会から排除されました。結果、育児ノイローゼや虐待などの問題が起きています。昔は村全体で行っていた「高い水準の子育て」を、母親が1人で担うためです。夫が妻子を養うための収入を1人で稼ぐことを前提とした核家族ですが、この「妻子を養うための収入を1人で稼ぐこと」ができる男性が少なくなっていますね。

女性のライフスタイルも変化しました。こういう変化の中で、「男性は外で仕事をして、女性は家事育児と趣味的仕事をする」という新性別役割分業へと、従来の性別役割分業が少しだけ変化しました。家のことは女性がやるべきという規範は残ったままです。

理想の家族像はオバケのようなもの

(編集部)そうした理想像の変化にも、社会の変化が関係しているのでしょうか?

(栗山先生)そうですね。時代の変化に合わせて理想の家族モデルが移り変わってきたことは、リカちゃんママ(※3)を見ればよくわかります。

(※3)株式会社タカラトミーの商品。正しくは、香山織江で33才の設定。

初代のリカちゃんママは1960年代のウーマンリブの時代に生まれ、それを象徴するパンタロンを履いています。2代目は一転してフェミニンな恰好に。この頃、高まっていたウーマンリブへのバックラッシュで専業主婦思考の影響です。バブル期の3代目と4代目を挟んで2004年に生まれた5代目は、キャリアウーマンらしい短いスカートを履いて若返り。このリカちゃんママはファッションデザイナーで、娘のリカちゃんとは友達のような関係という設定です。

リカちゃんパパも、初代はかっちりとしたスーツを着た、いわゆる「モーレツ社員」だったのが、2014年のリニューアルでは「育メン・オブ・ザ・イヤー」を受賞した音楽家という設定に変わっています。

現代の女性は、頭の中にある「良い家族」や「良い母親」のモデルに近づこうと自分を追い込みがちですが、リカちゃんママの変化からも見えるように、家族像とは実体がなく、常に変化し、個人の意識によっても変わるオバケのようなもの。どこかに模範的な家族があるというのは誤解なのです。「青い鳥はどこか遠い空のかなたにいるのではなく、いまのあなたのリビングルームにいるのだということを常に心に留めておいてください」とはベイデンパウエル卿(※4)が未来のスカウトたちに送った言葉ですが、理想の家族とはそれぞれの家族にあるという考え方が大切なのではないでしょうか。

(※4)イギリス人で、ボーイスカウトなどのスカウト運動の創立者。

まとめ

アメリカドラマに見た理想の家族像。時代の変化に合わせて家族の形も変化してきましたが、その理想を追求するあまり自分を苦しめてしまっていることも事実なようです。これからも大きく時代が変化していきますが、未来の家族像とはどのような姿をしているのでしょうか。

次回、後編では、多様化による未来の形について、引き続き栗山先生に話を伺います。

後編の記事はこちら

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プロフィール

栗山 直子

栗山 直子 (くりやま なおこ) 追手門学院大学 経済学部 経済学科 准教授 博士(人間福祉)専門:家族社会学

2017年 関西学院大学 社会福祉学研究科 人間福祉学専攻 博士課程修了 Ph.D.
2009年~ 追手門学院大学 准教授
主な著書に 分担執筆『家族を読み解く12章』丸善出版ほか 多数

研究略歴・著書・論文等詳しくはこちら

取材などのお問い合わせ先

追手門学院 広報課

電話:072-641-9590

メール:koho@otemon.ac.jp

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