【変化する読書のカタチ・後編】貸出型から滞在型へ。図書館はまちづくり・文化創造の切り札となるか?

追手門学院大学 国際教養学部湯浅 俊彦

【変化する読書のカタチ・後編】貸出型から滞在型へ。図書館はまちづくり・文化創造の切り札となるか?
(写真:PIXTA)

新型コロナの外出自粛の影響で、書籍の無料公開が広がったことで、「電子書籍」の存在感が増しています。そして、図書館のあり方にも変化が起きているようです。前回、電子書籍の普及や、デジタル化によって生まれた新たなサービスについて話を伺った、電子出版の普及や図書館改革に取り組んでいる、日本出版学会副会長・日本図書館協会出版流通委員でもある、国際教養学部の湯浅俊彦先生に引き続き解説してもらいました。

前編の記事はこちら

今回は、滞在型図書館をはじめとした新たな図書館のあり方と、それを受けて変化する読者がテーマです。

滞在型図書館のパイオニア

滞在型図書館のパイオニア
武雄市図書館開館内覧会に出席した湯浅先生(2013年)

あなたは貸出派?滞在派?

(編集部)開設時に全国から注目された佐賀県の武雄市図書館についてお聞かせください。

(湯浅先生) 貸し出し中心主義の図書館から滞在型の図書館への転換を象徴する画期的な図書館です。リニューアルを手掛けたのは、東京・代官山に「世界一美しい書店」として有名な「代官山蔦屋書店」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブです。

図書館に本を持参して勉強する人は多いですが、実は歴史があります。昔、本は大変貴重で、図書館は本を借りずにその場で「閲覧」し自習する場所でした。1970年代になり、「市民の図書館」という「貸出サービス」「児童サービス」「全域サービス」に力を入れるようになり、好きな本を借りて帰ることができる開架型への転換が起こりました。しかし、それから50年ほど経過し、次第に人々が求めているのはどういう図書館なのかが見直されるようになりました。これが、貸出型でなく滞在型の図書館が登場することになった経緯です。

誰かの書斎を訪れたような空間

(編集部)滞在型の図書館は、今までの図書館と比べてどのような違いがあるのでしょうか?

(湯浅先生)滞在型の図書館では、様々な本が体感できるようほぼ開架で、利用者が使いやすいテーマや企画に沿って分類されます。一日中過ごせるよう食事場所も併設され、イベントも頻繁に企画されます。

一方で難解な本も置いています。武雄市図書館は新たな図書館像を象徴する革命的な試みで、従来型の図書館から猛反発を受けました。書店のように本が主題に沿って配架され、誰かの書斎に来たようなイメージが「日本十進分類法に従わないなんて!」と反対声明を生むほどでした。

2013年4月の武雄市図書館開館は一つの象徴的な出来事で、そのほかにも指定管理者制度の活用によって滞在型図書館が全国に生まれていきました。公共施設が「人々の滞在の場」「市民的価値を創造する場」へと変わってきた時代背景の中で生まれた存在です。武雄市図書館では電子書籍はまだ積極的に活用されていませんが、紙の本と電子書籍とのハイブリッド化が進めばさらに良くなるでしょう。

社会に革新をもたらす図書館を

社会に革新をもたらす図書館を
(写真:PIXTA)

未来の図書館のあり方

(編集部)今後の図書館の目指す方向性や役割について、先生はどのようにお考えでしょうか?

(湯浅先生) 公共図書館の利用者カードは、どの地域でも市民の20%程度しか作られておらず、実際の利用率は10%程度でしょう。

情報が陳腐化するスピードが増し、社会が生涯学習型へと変化しているので「読みたい本が貸し出されていて書架にない」というのは良くなく、「いつでも使える図書館」に変える必要があります。また、図書館は市民がもっている課題を解決する「情報センター」にもなっていくべきです。これらは、大学図書館にも同じことが言えます。学術的な本に限らず、コミックなどのいわゆる「軽い本」も研究材料になるので、ケータイ小説やコミック作品も当然資料として必要です。

これからは、「現在の標準」に合わせるのではなく、イノベーションを起こすような図書館にしていかなければいけないと思いますね。

読者が発信していく時代

(編集部)電子書籍の普及や図書館の変容で、社会はどう変わっていくのでしょうか?

(湯浅先生) 個人が出版社や書店というこれまでの出版メディアの枠を超えて自由に発信できることが、暮らしを変えていくと思います。

これからは、多くの本を読んだ人が知識人として発言力を持つのではなく、「本をどう読んだのか、どう発信していくのか」が問われます。書かれていることが絶対!という思い込みを持たず、少し疑いを持って内容を検証し、文章・映像など自分の得意な形で自ら発信していく能力が求められていくでしょう。

これらをうまく活用してこれからの時代を生き抜いていく人材を育てていきたいと思いますし、自然に変わっていくと期待しています。

まとめ

ある有名小説家が新型コロナをきっかけに電子書籍化を許可したことが最近話題になりました。外出を控えるいま「電子書籍の価値」が再認識されています。デジタル化は、これまで本に縁のなかった人々に文字情報への扉を開いてきました。「知の循環構造」の中で、次の時代をつくる人材が生まれ、次世代が起こすイノベーションによって、さらに便利で優しい社会へと変わっていくことでしょう。

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プロフィール

湯浅 俊彦

湯浅 俊彦 (ゆあさ としひこ) 追手門学院大学 国際教養学部 国際日本学科 教授 博士(創造都市)専門:図書館情報学、出版メディア論

大阪市立大学 創造都市研究科 都市情報環境研究領域 博士課程修了
日本ペンクラブ言論表現委員会・副委員長、神戸市立図書館協議会・会長。図書館振興財団「図書館を使った調べる学習コンクール」審査委員。
主な著書に『岩波講座 現代社会学 第15巻 差別と共生の社会学』(共著、岩波書店、1996)、『デジタル時代の出版メディア』(ポット出版、2000)、『日本の出版流通における書誌情報・物流情報のデジタル化とその歴史的意義 』(ポット出版、2007)、『電子出版学入門』(出版メディアパル、2013)、『電子出版活用型図書館プロジェクト』(出版メディアパル、2019)等 多数

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