電子書籍の現在
電子書籍は「まだ早い」!?
(編集部)今回は電子書籍の役割を振り返りながら、未来の図書館のあり方についてお聞きしたいと思います。日本では電子書籍がどのくらい普及しているのでしょうか? (湯浅先生)電子書籍には社会変革を起こして、新しい文化を創り出す力があるんですよ。電子出版は、1990年代から世界的にまず学術分野で導入されました。英文の電子ジャーナルの登場が始まりです。その後、電子書籍へと広がり、日本でも1995年から電子書店が登場し、2010年にはiPad、2012年にはアマゾン「Kindle」が国内でサービスを開始。そこから、電子雑誌も読み放題サービスなどで提供されるようになりました。日本は世界でも珍しく「電子コミック」が突出して普及し紙媒体よりも売上が多いものの、コミック以外の電子書籍はまだまだです。統計(※1)によると、現在購入可能なタイトル数は、紙書籍約218万8千件に対し、電子書籍は約23万6千件と大きな差があります。一方で、電子出版物総売上は伸びており、2019年には年間販売額が3,000億円を突破し、出版全体売上の約2割を占めるまでになりました。
公共図書館でも電子書籍導入を進めるよう全国で講演を続けていますが、「まだ早い」という声が多く、電子書籍を扱う図書館は300館程度(※2)にとどまります。コロナの影響で閉館しても、電子書籍は貸出を継続できますが、紙書籍は貸出が継続できず大きな差が生まれています。
(※1)2020年2月時点の出版情報登録センターによる統計。アマゾン、楽天、LINEマンガなどの扱いタイトル数は多いが、正確な統計資料はない。 (※2)全国の図書館数は約3,200館「活字離れ」は本当に深刻?
(編集部)「活字離れ」は、電子書籍によって変わるのでしょうか? (湯浅先生)実は、紙の本や雑誌が売れないだけで、文字情報への依存はむしろ拡大しています。昔は本屋で探していた政府系情報といわれる統計、法典、判例なども、いまはオンラインで無償公開されています。また、ケータイ小説の流れから現在70万タイトル以上も掲載されている「小説家になろう」のような投稿サイトで、多くの小説が生まれては読まれています。このように文字情報は増えているんですよ。一部の人が本を読む時代から、多くの人が本以外の文字情報に頼る時代に変わってきています。電子書籍によって、本の読み方がユビキタスになっているのは、良い傾向です。この流れに乗り、さらに本が読まれるようにすることが、学校教育に求められます。どうやって質の高い本を見つけ、活用していくかというのも課題です。
Google Booksの図書館版
(編集部)図書館でもはじまっている「ディスカバリーサービス」とは、どのようなものなのでしょうか? (湯浅先生)聞きなれない言葉ですよね。「ディスカバリーサービス」とは、電子書籍、電子雑誌など著作物の本文内を一括して検索できるサービスです。以前は、本の書名や件名に、主題を探すための「キーワード」が入っていないと検索結果に表れませんでした。ところがディスカバリーサービスでは、電子化されている図書や雑誌、新聞、論文などの本文の該当箇所が検索結果に表示されます。迅速な検索と、適合度に従って検索結果を表示できる点が特徴です。図書館が扱う出版物だけが検索対象となるため、検索結果に現れるのは信頼できる情報です。Google Booksの図書館版とも言えますが、Google Booksよりも信頼度が高いといえるでしょう。
デジタル化が変えたサービス
バリアフリーでグローバルな存在
(編集部)デジタル化によって様々な新サービスが生まれてきているのでしょうか? (湯浅先生)そうですね。いま「デジタル絵本の読み聞かせ」が公共図書館で始まっています。ページ拡大が自由自在で、音声読み上げもできるので、弱視や視覚障がいの子どもたちも楽しむことができます。視覚障がい者は図書館に行くこと自体が難しいので、来館せず貸出サービスを利用できることが大きいですね。電子書籍の自動音声読み上げが新刊図書でも可能となれば、長い順番待ちをせずに済みますし、ボランティアに頼らず自分の好きな時に聞くこともできます。
また、外国人向けのサービスも始まっています。浜松市立図書館では、定住しているフィリピン人向けに英語やタガログ語の電子図書がタブレットで借りられるようになりました。実証実験を共同で行いましたが、利用者は感激していましたよ。フィリピンの人々にとって、図書館は今まで遠い存在でしたが、電子書籍によって本に触れる機会が生まれ、簡単に使えるようになったんです。さらに定住外国人が情報を発信することもできる。まさに社会変革と言える大きな変化です。