「あなたへのオススメ」があふれる社会。進化するレコメンドシステムの今とレビュー分析の可能性

上田 真由美

上田 真由美 (うえだ まゆみ) 追手門学院大学 経営学部 経営学科 教授専門:情報検索、情報推薦、教育支援システム

「あなたへのオススメ」があふれる社会。進化するレコメンドシステムの今とレビュー分析の可能性
出典:Adobe Stock

インターネットで買い物をする際に、よく目にする「あなたへのオススメ」。 ECサイトやSNS、音楽や動画配信のプラットフォームが推薦する情報は、私たちの消費行動に大きな影響を与えています。また商品購入やレストラン・宿泊先の予約など、生活のあらゆるシーンでネット上の口コミ(レビュー)を参考にする人も多いのではないでしょうか。 そうした中、GoogleやAmazon、楽天、リクルートなど大手プラットフォーマーは、検索履歴や購買履歴だけでなく、ユーザによるレビューをビックデータに加えることで、次なる消費行動に繋げるためのレコメンドシステム(Recommender System:情報推薦システム)の開発・改良を続けています。

今後、私たちはどこまで自分に最適化された情報を受け取ることができるようになるのでしょうか。今回は、情報学が専門でレビュー分析を中心にレコメンドシステムの研究を進めてきた経営学部の上田真由美教授に、レコメンドシステムの現在地について解説いただきます。

情報推薦がもたらす「あなたへのオススメ」

情報推薦がもたらす「あなたへのオススメ」
出典:Adobe Stock

1990年代に登場したレコメンドシステム

(編集部)GoogleやAmazon、楽天、リクルートなどのプラットフォームを利用していると、さまざまな商品やサービスをオススメされます。この背景にあるのが、先生の主な研究対象であるレコメンドシステムなのでしょうか。

(上田先生)そうです。例えばAmazonで何か商品を購入しようとすると、「あなたにオススメ」や「あなたが購入する商品とよく一緒に購入されている商品」、「閲覧履歴に基づくおすすめ商品」など、さまざまな切り口で商品が推薦されてきますよね。これはユーザインターフェースの裏側で、リコメンデーションと呼ばれる、顧客の好みや購買履歴などを分析して商品・サービスを提示する技術が動いているからです。

そしてなぜ大手プラットフォーマーがレコメンドシステムを重要視しているかと言うと、「ついで購入」を促進するためです。現実社会でスーパーやコンビニに行くと、レジの近くに置いてあるものをつい買いたくなりますね。あれと同じ状況を作り出そうとしているのです。

実際にアメリカ大手コンサルティング会社のマッキンゼーが出しているレポート(※)によれば、Amazonの顧客の約35%がリコメンデーションから購入。Netflixに至っては75%のユーザがリコメンデーションされた動画を視聴しているというデータが上がっています。

(※参照) McKinsey & Company “How retailers can keep up with consumers”

(編集部)レコメンドシステムの影響力を感じますね。このシステムはいつ頃から利用されるようになったのでしょう?

(上田先生)はじめに1980年代後半に電子メールやネットニュース関連で「情報フィルタリング」(大量の情報の中から、ユーザにとって必要な情報を取り出し、不要な情報を除外する処理を自動的に行う技術)が登場し、この技術は1990年代に盛り上がりをみせるようになりました。 そして、インターネットやコンピュータが一般家庭にも普及してきた1997年、コンピュータサイエンス分野の国際学会であるACM(Association for Computer Machinery)の学会誌で、情報フィルタリングの特集号が組まれました。その中の記事で「人は何かを選ぼうとした時に、誰かに教えてもらったりガイドブックに頼ったりするもの。これをシステム的に作ってあげましょう」といったことが紹介されたことで、1990年代後半に「情報推薦・情報フィルタリング」の研究が盛んになったのです。 「いつ頃から利用されるようになったか」と言われると「1990年代後半」になるかと思います。

「いいお店」の価値観は人によって異なる

(上田先生)初期のレコメンドシステムは、いわゆるミシュランガイドのような推薦システムを、ネット上に作ってしまおうという発想から生まれました。つまり「みんなに対してのオススメ」を提案するシステムですね。それが段々と「個人に最適化されたオススメ」が提案できるようになろうと、多様な研究が進められるようになりました。

(編集部)たしかに人の好みは千差万別ですし、服装でも飲食店でも利用するシーンによってベストな選択は変わってきますので、「個人に最適化されたオススメ」情報があると嬉しいですね。

(上田先生)例えば友達に「食事するのにいい店知らない?」と聞かれたら、友達の好きな料理や予算、誰とどんな目的で行くのかといった複数の情報を加味して私たちは情報を推薦します。ですがコンピュータにこれをさせるには、インターネット上に集まるビックデータを精査して、何を基準にどう判断するかのルールを決める必要があります。その人に最適な「いい店」を推薦するために「どういう基準でどう点数をつけるのか」という部分が、レコメンドシステム研究において一番考えられていることだと言えるでしょう。

上田先生が取り組むコスメのレビュー分析

上田先生が取り組むコスメのレビュー分析
出典:Adobe Stock

きっかけは、女子学生の声

(編集部)先生はレビュー(口コミ)分析をもとにした、レコメンドシステムの研究・開発に取り組まれています。レビューに注目したのはなぜですか?

(上田先生)閲覧履歴や購入履歴だけでは、パーソナライズ(個人化)された推薦を行うには情報が不足しています。なぜならAさんがBという商品を買ったとしても、気に入っていない可能性があるからです。そこで私たちの研究グループでは、購入した商品に対してユーザがどう思っているかというところに注目しました。つまりAさんのレビューを分析すれば、商品Bに対する具体的な評価がわかり、Aさんの好みや価値観が見えてくるだろうと考えたのです。

(編集部)Amazonや楽天市場で商品を購入する時に、レビューを参考にしている人は多いと思います。例えば家具を買う時に「組み立てに時間がかかった」「部品が壊れていた」などのレビューがあると、いくら安くても購入を躊躇します。私たちは普段から無意識にレビュー分析をしているのですね。

(上田先生)その通りです。しかし実際にレビューをチェックして商品を選ぶ判断材料を得るというのは、有効ではあっても大変な手間です。そこで私たちは、もっと便利にレビュー内容を可視化できる手法はないかと考えました。「この人は操作性をいつも重視しているから、操作性のよい商品を上位に推薦してあげよう」などの判断ができるレコメンドシステムを開発しようとしたのです。

(編集部)購入履歴を参考にした推薦なら「買った」「買わなかった」の2択でしょうが、レビューは文章で書かれているものです。どのように推薦のための情報を吸い上げたのですか?

(上田先生)レビューの文章を点数化・スコア化する手法の開発に2015年から取り組んできました。それが現在「評価項目別のスコアリング」として発表している手法です。具体的には大手コスメレビューサイトに情報を提供いただいて、個別に最適なコスメが推薦されるシステムを構築してきました。

(編集部)コスメに着目されたのはなぜですか?

(上田先生)女子学生との何気ない会話がきかっけでした。「コスメレビューで星5点と評価が高かったから買ったけど、使ってみたら思っていた感じと全く違っていた」といった話で盛り上がりました。コスメは肌に直接触れるものですから、選び方を誤ると大きな問題につながる可能性もあります。個人に最適化されたレコメンドシステムを検討する上で、良い対象だと考えました。

膨大なレビューから、価値観の項目別評価に取り組む

(編集部)どのようにコスメのレビュー分析を進めてきたのですか?

(上田先生)コスメはジャンルやアイテム数が膨大なので、まずは化粧水を対象にレビュー分析を始めました。協力いただいたコスメレビューサイトでは、総合評価として最大7点の星評価があり、合わせてレビューが書き込まれています。ですが同じ5点でもレビューを見ると、ある人は保湿力を、別の人は爽快感を評価していたりと、価値観の違いが見られます。そこで評価項目別にどのような表現がでてくるのかをまず分析しました。

具体的に説明すると、「とても美白効果が良い」「潤いはあまり感じない」「毛穴レス効果が高い」などの頻出する評価表現を抜き出して、辞書を作ったのです。

例えば「とても美白効果が良い」ならば ①程度…とても ②キーワード…美白 ③特徴…良い とリスト化して、それぞれ組み合わせたものを辞書に登録し、スコアを付与しました。「とても美白効果が良い」の組み合わせなら6点、「美白効果が良い」なら5点、「美白効果がない」なら1点という具合です。 そしてこの評価表現辞書をもとに、コンピュータがレビューを読み込み、自動的に各項目の点数をつけるシステムを提案しました。これは「評価項目別レビュー自動スコアリング方式」という名称で学会などに報告しています。
評価項目別レビュー自動スコアリング方式
出典:上田真由美先生のスライドより「コスメアイテムに関する評価表現辞書の構築方法」

(編集部)自分が気になる項目の評価点を知ることができる良いシステムですね。しかしレビューを分析するのが大変だったのではないでしょうか?

(上田先生)化粧水に絞っても大量のレビュー情報がありましたから、このテーマに取り組む学生たちの人海戦術ですね。特に最初は「とても美白効果が良い」といったフレーズをそのまま登録していましたので膨大な数になりました。しかし「程度」「キーワード」「特徴」という評価項目を設定し、抽出のルールを作ってからは、ある程度スムーズに作業が進むようになりました。

とはいえかなり大変な作業でしたので、次に取り組んだのが評価表現に関する辞書構築の効率化です。例えばスキンケア関係のアイテムなら、最初に作った化粧水の辞書がある程度共有できます。しかしメイクアップに関してはまた別の辞書が必要なのが見えていたからです。

例えば「すぐ落ちる」という言葉を辞書登録するとして、メイク落としではボジティブな表現なのでスコアは高くなる一方で、口紅ですと非常にネガティブな表現のためスコアが低くなりますよね。アイテムによってスコアリングを切り分けつつ、ある程度自動的に辞書を作れるようにしたのが2019年頃の取り組みになります。

(編集部)この辞書、つまりデータベースさえあれば、システムを構築するのはそこまで難しくないのですか?

(上田先生)コンピュータがレビューをサーチして単語ごとに辞書と照合して点数をつけるだけのシステムですので、仕組み自体はシンプルです。逆を言えば、この辞書を作ったというのが、私たちの研究の優位点といえるでしょう。

めざすのは、その人にぴったりのコンテンツ提案

めざすのは、その人にぴったりのコンテンツ提案
出典:Adobe Stock

違いを見せることでユーザの意思決定を支援

(上田先生)最近では、レビュー分析を用いたレコメンドシステムと並行してさまざまな手法開発に取り組んでいます。一例としては、コスメの推薦システムの別軸として「相違点可視化手法」を用いたシステムの開発です。

これは未知のコスメアイテムの理解支援を目的としたシステムです。最近評判のコスメを使ってみたいけれど、判断基準がないために良し悪しを判断できないとなった時に、自分が今使っているアイテムと比較して良し悪しを判断できれば分かりやすいのでは、という発想からスタートしました。

コスメアイテム間の相違点可視化手法
出典:上田真由美先生のスライドより「コスメアイテム間の相違点可視化手法」

(編集部)多くの人は、今使っているものに多少なりとも不満があるからこそ新しい商品を探しているのでしょう。これはかなり使い勝手の良いシステムになりそうですね。

(上田先生)デモシステムを作ってコスメレビューサイトの担当者さんや学生たちに実証実験をしてもらったのですが、非常に評判が良いものとなりました。

システムの仕組みとしては、画面でまず自分が使用しているアイテムを選びます。すると、口紅なら「パール・ラメ」「色持ちの良さ」などの評価項目が現れ、その口紅のスコアが表示されます。またその下には、スコアが似たアイテムが一覧表示されます。

さらに口紅のスコアを、例えばパール感がもっと高い口紅を探しているなら「パール・ラメ」の項目の数値を上げると、自動的にそのスコアに準じたアイテムが再表示されるのです。

(編集部)デモシステムを実際に操作しながら解説いただいたのですが、素晴らしいですね。コスメレビューサイトに実装されたら、多くの方が利用するのではないでしょうか。また車やバイク、家電に応用されても面白そうです。

私たちはセレンディピティ(偶然の産物)と出会えるか?

(編集部)レコメンドシステムが日夜進化していることがよく分かりました。一方で、システムが進化することによる弊害もあるのでしょうか?

(上田先生)たしかに便利になる一方で、ユーザの視野が狭くなってしまうという弊害も研究者の中では以前から指摘されています。そして、このジレンマを解消する方法の一つとして、以前から注目されているのがセレンディピティです。

「セレンディピティ(偶然の産物)」とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすることを言いますが、レコメンドシステムがいかにユーザにとって意外かつ有用なアイテムを発見できるかを表す評価尺度としても注目されていますし、これを大いに研究している方もいます。 ただし私自身はどこまで乖離した情報を提供すれば良いのかの判断が難しいため、まだあまりフォーカスしていません。コスメの場合、ドラックストアのコスメを検討している時にデパートコスメを提案されても予算感覚が異なるので、良い出会いには繋がりにくいのではと思います。

(編集部)さじ加減が難しいのですね。先生のお話を伺って、私たちが本当に自分にあった商品やサービスの推薦を受けるには、購入したものを採点したり、レビューを書いたりといった、自分の嗜好や価値観に関わる情報を提供する必要があるように感じました。

(上田先生)それは言えると思います。プラットフォーム側もユーザの価値観情報を得るために色々工夫しています。一例としては、文章を書くのが苦手な人でもキーワードを選べばある程度自動的にレビューが作成できるようなシステムも導入されています。

(編集部)個人の価値観の開示が必要となる一方で、個人情報保護が課題になっている昨今、ユーザ側にもレコメンドシステムを利用する際のリテラシーが必要なのではないかとも思いました。

(上田先生)そうですね。学生と話していると、情報リテラシーをある程度学んでいて保護意識は高いようにも感じるのですが、注意喚起は必要だと感じています。またレビュー投稿に際して公開・非公開が選択できるなど、プラットフォーム側で情報管理の意思決定ができるようになると良いかもしれませんね。

(編集部)また昨今、AIを使ったフェイクニュースが話題ですが、「嘘のレビュー」に惑わされるといった問題も考えられますか?

(上田先生)その辺りはすでに対策が進んでいます。また炎上対策についてもプラットフォーマーは積極的で、危険と判断したレビューをある程度は機械的に判別して対処するシステムを導入しているようです。

(編集部)プラットフォームの信頼性にも繋がりますものね。最後に先生がレコメンドシステムの研究で実現してみたい目標をお聞かせください。

(上田先生)まず前提として、現代は情報が溢れている情報過多の時代といえます。この状況下で、自分にとってより良い情報に「出会う」ということは、ただ思いつくキーワードで検索しているだけでは労力もかかりますし、欲しい情報に出会えないかもしれない。そこで、似たような商品や、同じものを買った人が他に何を買っているかなどのレコメンドシステムは消費者にとっても有益なものだと思います。 そのうえで、より良いレコメンドシステムを生み出すための研究として、ネット上で自分と価値観が似ている人を見つけることができるようになれば、さらに可能性が広がると考えています。価値観が似ている人が高評価するものであれば、高い確率で自分も気に入ると思うからです。

そのためにも個々人の「価値観」を、システム上でどう表現すればよいのかを明らかにしたい。そうすればコスメに限らずどのようなフィールドでも、自分に最適なものを推薦してもらえるようになると思います。「価値観ってどう表現するんだろう?」と考えることが、今の一番の楽しみですね。

まとめ

モノやサービスが溢れ、価値観が多様化する今の社会は、ガイドブックなどのアナログなツールも含め「オススメを教えてくれる」存在がなければ、自力で選ぶことが困難な時代と言えるでしょう。そうした中でインターネット世界ではさまざまなレコメンドシステムが開発・併用されており、私たちも知らぬうちに恩恵を受けていることや、さらには個人に最適化された推薦に関する研究が進み、世界的プラットフォーマーも注目していることがわかりました。

一方で、自分に本当にあった推薦を受けるには、趣味嗜好や価値観に関わる個人情報の提供が欠かせないことも見えてきました。企業も個人情報保護に力を注いでいるものの、私たち消費者も個人情報の取り扱いや、提供する情報、提供先の取捨選択に意識的でなくてはならないこと。またセレンディピティという研究領域が示唆するように、推薦に頼りすぎて視野を狭めてしまうことに注意が必要でしょう。

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プロフィール

上田 真由美

上田 真由美 (うえだ まゆみ) 追手門学院大学 経営学部 経営学科 教授専門:情報検索、情報推薦、教育支援システム

関西大学 総合情報学研究科 博士課程修了 博士(情報学)。大阪大学サイバーメディアセンター 研究員、名古屋大学情報連携基盤センター 研究員、京都大学情報学研究科 特定研究員・特任助教、流通科学大学 講師・准教授・教授を経て、2024年4月より本学経営学部に着任。
現在、クロス・アポイントメントにより大阪大学サイバーメディアセンター 特任教授も務める。女性ならではの視点で、働く女性を応援する「情報推薦」の研究を行っている。

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メール:koho@otemon.ac.jp