フェイクニュース、デマツイート。止まらない拡散。その正体に迫る。

増井 啓太

増井 啓太 (ますい けいた) 追手門学院大学 心理学部 心理学科 准教授 博士(学術)専門:社会心理学、犯罪心理学、ダークトライアド(ダークテトラッド)、ネット荒らし、犯罪の保護因子

フェイクニュース、デマツイート。止まらない拡散。その正体に迫る。
出典:iStock

Twitter、Instagram、Facebookを代表とするSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は、今や現代社会におけるメジャーなコミュニケーションツールになりました。 SNSの特徴に、個人が気軽に不特定多数のユーザーへ向けて広く情報を発信できること、そして直接やりとりのないユーザーまで情報がすばやく拡散されていくことが挙げられます。ユーザーの多くが、誰かと話題を共有する楽しみや、SNSを使った情報収集が習慣化しているのではないでしょうか。

しかしSNSで飛び交うさまざまな情報の中には、正しい情報だけでなく誤った情報もあります。特に近年、拡散性の高い「リツイート機能」をもつTwitterでは、誤った情報がデマツイート、フェイクニュースとして瞬く間に広まって社会問題に発展するケースも目立つようになってきました。こういったデマ投稿は、なぜ拡散されていくのでしょうか。また、どのような心理状態の人が拡散してしまうのでしょうか。

今回は、デマツイートを拡散する人の特徴についてのお話です。社会心理学・犯罪心理学を専門とし、ネット荒らしを行いやすい人の性格特性などについて研究を行う増井啓太准教授に話を聞きました。

デマツイートの正体を探る

デマツイートの正体を探る
出典:Pixabay

拡散されやすいデマツイートの特徴

(編集部)まず、デマツイートとはどのようなものを指しますか。

(増井先生)虚偽の情報を含む情報やニュース、いわゆるフェイクニュースのうち、Twitter上で発信される投稿のことを指します。現実世界にマイナスな影響を与えようと悪意を持って創作されるデマツイートもあれば、誤った情報を信じた人が真偽を確認しないまま悪意なく発信し、それが広まるケースもあります。

(編集部)TwitterはSNSの中でも拡散力が高く、正確でない情報が流れることも多いですよね。広く拡散されるデマツイートに共通点はあるのでしょうか?

(増井先生)これは先行研究で分かっていることで、東日本大震災当時に拡散されたデマツイートの大半が「ネガティブで不安をあおる内容」でした。 また、総務省の調査では、同じく東日本大震災での情報通信に関して、デマツイートが拡散されてしまった後に訂正ツイートが発信されても、その出現スピードがデマ自体には追いつかなかったことが報告されています。

(編集部)見た人が不安になるデマの方が拡散が速いというのは、怖い事例ですね。

(増井先生)私の仮説ではありますが、先行研究やTwitterの動向から、「いいね」や「リツイート」が多い投稿ほど「正しい情報」であると捉えられる傾向があると見ています。 特にコロナ禍のように社会情勢が不安定な状況下では、人々は情報に敏感になりがちですから、先行して「いいね」や「リツイート」が多く付いた情報は注目度が桁違いなのかもしれません。

参考:梅島彩奈=宮部 真衣=荒牧 英治=灘本 明代「災害時Twitterにおけるデマとデマ訂正RT傾向」情処学会研報(2011年)
総務省『平成23年版 情報通信白書』第1部 東日本大震災における情報通信の状況

過去にはデマツイートから社会問題になったケースも

(編集部)身近なところでも、度々デマツイートが話題になりますよね。たとえば、2020年2月〜3月に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、「マスク増産に紙が使われ、紙製品の在庫がなくなる」「中国でトイレットペーパーの生産が追いついておらず品薄になる」といった情報が出回った記憶があります。

(増井先生)そうですね。この情報は根拠のないデマでしたが、Twitterなどで情報が拡散されたことで、一時的とはいえ、全国でトイレットペーパーの品切れが相次ぎました。しかし、実際にはトイレットペーパーは国内生産がほとんどで、生産・供給体制にも何の滞りもなく、すぐに店頭に補充されました。まさに、人々の不安をあおる情報が拡散された一例です。

この騒動は「デマが広まることで、デマが実現してしまった」という状況も特徴的で、人の複雑な心理が関与しています。 というのも、「自分はデマツイートにだまされないぞ」とデマであることを見抜いていた人たちにも、トイレットペーパーを買いに行く様子が見られたんです。不安にあおられ行動する人々を見て、別の不安が発生していた、と言えるのではないでしょうか。

(編集部)デマを信じた人も信じなかった人も、結果的にデマに影響されたんですね。

デマツイートを拡散してしまうのはどんな人?

デマツイートを拡散してしまうのはどんな人?
出典:増井啓太・長尾美乃莉「デマツイート拡散意図に関わる不確実さ 不耐性と自己への関与の影響」, 日本パーソナリティ心理学会第30回大会ポスター発表資料を参考に編集部がイメージを作成

拡散の動機はどこにある? Twitterを使う大学生に行った調査

(編集部)増井先生は、デマツイートを拡散してしまう人の特徴について実際に調査をされたそうですが。

(増井先生)コロナ禍の第一波の最中、世情が不安定になっていた2020年5月に、当時ゼミに所属していた学生が行った調査結果を、私自身が改めて分析しました。

調査では、関西圏の大学に通う学生のうち、Twitterを利用している99名(男性24名、女性75名)に次の2種類のデマツイートを見てもらい、アンケートを実施しました。

①台風の影響で「東京」の○△動物園から虎が逃げ出した ②「大阪府内」にある 工場の大規模な爆発事故により、人体に影響のある有害物質が大気中に広がり非常に危険

これらがTwitter上の自分のタイムラインに表示されたことを想定して、それぞれについて「リツイートしたくなるか?」「ためになったと感じるか?」といった複数の質問に回答してもらい、驚きや不安の度合い、拡散意図を測りました。

調査から見えてきた「デマツイートを拡散してしまう人の特徴」とは

(編集部)調査からどのような傾向が分かりましたか?

(増井先生)端的にいうと、「不確実性に対する不耐性」(IU:Intolerance of Uncertainty)が高い人ほど、内容に関わらずデマツイートを拡散しやすい傾向があるということがわかりました。

IUとは、まだ起きていない未来のことや不確定な物事に対する“不安の感じやすさ”を測る心理学の考え方です。このIUが高い人は、将来の不確実さや結果が予測できない状況を脅威であると認識しやすく、過剰に不安を感じたり、そのような状況を避けようと過度な反応を示したりすることがあります。

IUが高い人ほど、その特性からデマツイートの内容を過剰にネガティブに捉え、不安や情報を求める心理から拡散したくなる傾向にあることが考察できます。 また「IUが高い人のグループ(IU高群)」は「低い人のグループ(IU低群)」と比べて、自分への関与が高い話題において拡散意図が顕著に高まるというデータが出ました。これは、特に身近に感じる物事に対して驚きや不安、恐怖をより強く感じたということです。

つまり、未来に対する不安や恐怖を感じやすい人は、デマツイートを拡散してしまう傾向にある。さらに、それが自分と関係性の高い内容であればその傾向が高まるということです。

(編集部)不安や恐れが拡散の動機になるんですね。調査結果から他に注目すべき項目はありましたか?

(増井先生)この他に、IU高群の拡散意図に「(この情報は)ためになった」という程度が関与していました。ためになった情報を拡散したいと思う傾向にある、ということは、他人に向けて「良かれと思って」情報提供している、またはリツイートで話題を発信し多くの情報を得ようとしている、もしくは不安に対してアクションを起こすことで、対策を取ったと安心感を得ているなどさまざまな可能性があり、大変興味深い点だと感じます。

デマやうわさが広がるメカニズムは、これまでも社会心理学の領域で多く研究されています。しかし今回のように、デマを拡散してしまう人の心理についてはあまり研究対象になっていません。デマを拡散してしまう人や、デマを信じやすい人など、内面に対する研究は今後取り組んでみたいテーマの一つです。

古くから知られる「うわさが伝播する仕組み」とは

うわさが伝播する仕組み
出典:photo AC

うわさとデマツイートは同じようなもの?

(編集部)デマやうわさが広まるメカニズムは、これまで多く研究されてきているそうですが、これらは同じような性質を持つのでしょうか?

(増井先生)違いを挙げるならば、うわさは必ずしも事実に反するとは限りません。フタを開けてみれば正しい情報だった、ということもありますよね。 しかし、うわさはフェイクニュース同様、社会に混乱やパニックを引き起こすことがあります。現象のメカニズムが解明されれば社会に役立つことは間違いなく、うわさ研究には大きな意義があると言えます。

要素は重要度と曖昧さ。うわさの広がり方には法則がある!

(編集部)デマツイートの話では、ネガティブでセンセーショナルなものが拡散されやすいということでした。うわさの広がりやすさも同じなのでしょうか。

(増井先生)うわさの広がり方について、1947年にアメリカの心理学者、オルポートとポストマンが提唱した「うわさの法則(流言の基本公式)」がありますのでご紹介しましょう。

うわさの法則は、式で表すと“R∼I×A”です。 記号の「∼」は比例するという意味で、流言の流布量(R:rumor)は、情報の重要さ(I:importance)と内容の曖昧さ(A:ambiguity)の積に比例する、というものです。

情報の重要さとは、他者から伝えられた内容が“自分にとって”どれほど重要であるか。 先ほどご紹介した研究でいえば関与度を指します。また曖昧さとは、ぼんやりとした内容であればあるほど、うわさの拡散力を高めるということです。 ポイントは、2つの要素の積(かけ算)であること。どちらかがゼロである場合にはうわさが広がることはない、ということです。

(編集部)全く重要でない、または真実が正確に語られている場合は、うわさにはなりえないということですね。

うわさが招いた金融機関倒産の危機

(増井先生)うわさについては、1973年に「豊川信用金庫事件」と呼ばれる事件がありました。うわさが原因となり、愛知県の信用金庫があわや破綻という危機に陥ったんです。 事のはじまりは女子高生同士の列車内でのたわいない会話でした。信用金庫に就職が決まった同級生に、その友人が「信用金庫は危ないよ」と言ったのです。

これは、金融機関には強盗が来るかもしれないから危険だよ、という意味のジョークでした。ところが言われた側の女子高生は、その言葉を気にして家族に「信用金庫は危ないの?」と相談。その家族は“経営状態のことか”と受け取り、親戚に「豊川信用金庫の経営状態は悪いのか」と尋ね……そこからうわさが瞬く間に拡散されました。 うわさが広まるにつれ、内容は「経営状態が危ないらしい」から「すでに危ない」という断定調に変わっていき、話を耳にした人々が預金を引き出そうと信用金庫に殺到する騒ぎに。20億円もの預金が引き出されることになりました。 信用金庫が「経営状態は良好」とアナウンスしても混乱は収まらず、最終的には日本銀行が「豊川信用金庫の経営状態に問題なし」と記者会見を開くなどして収束に向かいました。

うわさの法則に当てはめると、「どうやら経営が危ないらしい」という曖昧さと、資産という人々にとって極めて重要な要素がうわさを大きくしたんですね。

(編集部)デマツイートのところであった「訂正内容が発信されても、そのスピードはデマ自体に追いつかない」という点にも重なりますね。

デマツイートを不用意に拡散しないために

デマツイートを不用意に拡散しないために
出典:photo AC

時代は変わり伝達ルートが進化しても、デマに踊らされるのは同じ?!

(編集部)うわさやデマは、今も昔も広まりやすいものなんですね。

(増井先生)内容の性質に関して言えば、今も昔も変わりはないでしょう。コロナ禍のデマツイートを発端としたトイレットペーパー騒動をご紹介しましたが、過去を見れば1973年、オイルショックをきっかけに「紙製品がなくなる」といううわさによって同じようなトイレットペーパー騒動が起きています。人はいつの時代もうわさやデマに踊らされることがあるのです。

ただ、TwitterをはじめとするSNSの登場によって、その拡散スピードや拡散される範囲は段違いになりました。 うわさの伝播ツールが、広域なリアルタイム性を持つWeb上に登場した。しかも誰もが容易に、知らない誰かに対しても発信・拡散できる。ここは注目すべき点だと考えます。

情報発信はコミュニケーション。「誰か」のことに思いを馳せる

(編集部)自分がデマやフェイクニュースを拡散してしまう側にならないためには、どういったことに気をつけるのが良いでしょうか。

(増井先生)現実世界でもWeb世界でも、大事なのが、まず一呼吸おくこと。 特にSNSでは、誰の発信であっても不特定多数に広がる可能性がありますから、その前提を忘れずに、情報を拡散する前に内容について一旦考える習慣をつけることです。

また「うわさの法則」でご紹介したとおり、流言(うわさ)の流布量は、情報の重要さと内容の曖昧さのかけ算です。一人ひとりが正確な情報の収集を心がけ、曖昧さを極力小さくしていけば、デマツイートやフェイクニュースによる混乱は防げるでしょう。

(編集部)近年、情報リテラシーの向上が社会の急務であると言われています。情報リテラシーが成熟していけば、デマやフェイクニュースに踊らされない人は増えるでしょうか?

(増井先生)情報リテラシーの向上はもちろん必要だと思います。ただ私としては、それにばかり焦点を当てるのも違うのかなと考えます。 情報リテラシーは「情報を適切に判断して活用する能力」と言われ、これは個人のスキルです。

一方、うわさやデマツイート、フェイクニュースの「拡散」に焦点を当てると、人と人との繋がりです。その観点から見ると、情報の拡散とは相手あってこそのコミュニケーションなんです。 何かを発信したとして、その先には人がいる。そしてさらに先の人に繋がっていく……。 発信者が「自分の情報を受け取る側」に与える影響について、想像力を働かせられるかどうかが大きなカギであり、対面だから、オンライン上だからという境目はありません。 情報リテラシーを育てるベースには、コミュニケーションに対する真摯な姿勢があるべきではないでしょうか。

デマツイートやフェイクニュースで他者の不要な不安をあおらないためには、発信する先には人がいると改めて認識することが大切だと思います。

(編集部)大切な観点ですね。あとは、情報を発信、拡散する場であるSNS側のシステム改善にも期待したいところですが。

(増井先生)Twitterでは近年、他者の記事をリツイート、または引用リツイートする際に「まずは記事を読んでみませんか」とリンク先の記事を読むようリマインダーを表示する機能が実装されました。 これは反射的なアクションを起こす前にワンクッション置く、という意味で有効性が期待できるのではないでしょうか。

SNSは誰もが容易に発信・反応できるだけに、まずは一呼吸置く。そして情報が届く「誰か」に与える影響を考える。良かれと思っての行動が思わぬ事態を招かないよう、心あるコミュニケーションを大切にしたいですね。

まとめ

増井准教授が行った調査では、デマツイートを拡散してしまう人の特徴として、起こりうる未来の出来事に不安や恐怖を抱きやすい=不確実さ不耐性(IU)が高い人であることが分かりました。また「拡散することが自分や人のためになる」という感情から悪意なく行動してしまう人もいるというのは驚くべき点です。

いつの時代も、世の中はデマやうわさにあふれています。「情報の発信と反応は、あくまでコミュニケーションである」という捉え方は、改めて考えさせられるものがありました。大切なのは、情報を伝える先には人がいる、という意識なのですね。 情報リテラシーとは、コミュニケーションの中で生きるもの。日進月歩で進化する情報環境の中、誰もが簡単に発信者、情報を扱う側になれるからこそ、まずはコミュニケーションの視点を大切にしていきたいと感じました。

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プロフィール

増井 啓太

増井 啓太 (ますい けいた) 追手門学院大学 心理学部 心理学科 准教授 博士(学術)専門:社会心理学、犯罪心理学、ダークトライアド(ダークテトラッド)、ネット荒らし、犯罪の保護因子

 
主に犯罪や社会的逸脱行為、インターネット上のさまざまなトラブルが発生する原因について、加害者の心理的特徴に着目し研究を進めている。また、犯罪や問題行動を抑制するための社会環境要因に関し、犯罪心理学、社会心理学の観点から検討も行っている。

2012年 広島大学 総合科学研究科 総合科学専攻 博士課程修了
2022年~ 現在追手門学院大学 心理学部 心理学科 准教授

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