UNIVAS(ユニバス) 。「日本版NCAA」大学スポーツ協会の現在地。

吉田 良治

吉田 良治 (よしだ よしはる) 追手門学院大学 客員教授 専門:スポーツマネジメント論、コーチング、チームビルディング、スポーツマンシップ、ライフスキル

UNIVAS(ユニバス) 。「日本版NCAA」大学スポーツ協会の現在地。
(出典:スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE https://sports.go.jp/tag/country/univas-2.html)

「ニュースの面白さは、見方次第」——-日々移り変わる世の中の出来事を、追手門学院大学(大阪府茨木市)の教員らが専門的知見に基づいて読み解き、独自のニュースとして提示するニュースメディアOTEMON VIEW。今回は大学スポーツ協会「UNIVAS」を取り上げます。

2019年3月に発足した大学スポーツ協会は、英語名の(Japan Association for University Athletics and Sport)の頭文字をとって「UNIVAS(ユニバス)」と呼ばれています。大学スポーツ界では事故や指導上のハラスメントなど安全面での問題もしばしば報道されています。大学スポーツが安心・安全を確保した上で、単なる課外活動を超えて、地域・社会のなかでさらに発展するためにはどうすれば良いか。こうした課題を背景に設立されたUNIVASが目指す、大学スポーツの現在地とは?
今回はワシントン大学へのアメリカンフットボールコーチ留学を経験し、現地の大学スポーツに詳しく、UNIVAS設立にも関わった客員教授の吉田良治先生の解説です。

「UNIVAS」とは?

「UNIVAS」とは?
多様な大学スポーツ(出典:スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE https://sports.go.jp/tag/policy/univas-1.html)

UNIVAS発足の経緯と目的

(編集部)2019年3月の発足からもうすぐ2年が経ちます。「UNIVAS」の定義、発足の経緯と目的を教えてください。

(吉田先生)「UNIVAS(ユニバス)」は一言でいうと、大学スポーツの統括団体です。一般社団法人で文部科学省の外局であるスポーツ庁の支援を受けて設立されました。発足時は設立に関わった大学スポーツ関係者が中心となり理事に就任していましたが、現在はプロパー職員を募集するなど事務局体制を充実させているようです。

そもそもUNIVASが設立されたのは、大学スポーツを通じてスポーツ産業の活性化を図ろうという産業界からの働きかけがきっかけです。アメリカにはNCAAと呼ばれる全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Associationの略称)という組織があり、大学スポーツがビジネスとして成立しています。このNCAAを参考に、2016年頃から「日本版NCAAの設立」をかけ声に組織づくりの検討が始まりました。2018年からは私も設立準備のメンバーとして参画しました。

議論を重ねるなかで、より教育的な視点から学業との両立、就職を視野に入れた学生アスリートのキャリア形成、昨今の不祥事を受けての安心・安全対策といったテーマが盛り込まれました。教育、ビジネス、キャリア形成といった大きなテーマを含め「大学スポーツ全体をより良くしよう」という目的で、それぞれのテーマについて各分科会によって議論され、2019年にスポンサー企業や加盟大学の募集が始まったのです。

参考:UNIVAS (ユニバス) 大学スポーツ協会 公式ホームページ

UNIVASの加盟大学と加盟競技団体

(編集部)実際どの程度の大学がUNIVASに加盟しているのでしょうか?加盟のメリットはあるのでしょうか?

(吉田先生)全国には800近い大学があるのですが、2019年の発足時は追手門学院大学含む219大学(短期大学含む)が加盟(2020年7月末時点で221大学)しました。特徴としては、加盟校の多くが私立大学であることですね。東京大学、京都大学、筑波大学をはじめ国立大学の3分の2はまだ加盟していません。私立大学でも早稲田大学は加盟していますが、慶應義塾大学、明治大学、日本大学、同志社大学、関西学院大学など大学スポーツでも存在感のある大学は加盟していません。

次に競技団体ですが、野球、ラグビー、アメリカンフットボールといった大学スポーツを代表する競技をはじめ32の団体が加盟しています。一方で、大学スポーツの中でもメジャーなサッカーや駅伝は加盟していません。

加盟のメリットはUNIVASの設立目的でもある「大学スポーツを取り巻く環境を改善する」ことですが、大学によっては「改善=メリット」として受け入れられていないのが現状です。国立大学と私立大学ではスポーツに対する温度差もありますし、UNIVASに加盟している大学の間でさえも考え方や加盟目的は異なります。まずは、改めてUNIVASの設立目的やメリットを共有することが重要ではないでしょうか。

参考:UNIVAS (ユニバス)の加盟団体一覧(公式ホームページ)

UNIVASの具体的な事業活動

(編集部)UNIVASに加盟する大学も競技団体もまだ増やしていく必要がありそうですね。この2年間における、UNIVASの具体的な活動内容はいかがですか?

(吉田先生)公表されているとおりですが、活動の柱は「安心・安全」「学業充実」「大学スポーツのビジネス化」です。具体的には「安心・安全」に関する各種ガイドラインの策定、企業とコラボをしたデュアルキャリア(※1)セミナーなどはすでに着手されています。

ただ、「学業との両立」のように着手が難しいテーマは、思うように進んでいないのが現状です。アメリカの多くの大学ではスポーツを続けるために必要な単位数とGPA(※2)が設定されています。日本の場合、例えば追手門学院大学ではGPA2.2という学業基準を設けていて、そのほか一部の大学でも同様の制度が導入されていますが、学業優先では練習時間が削られるといった考え方から、学業基準を設けることに賛同していない大学も少なくなく、足並みを揃えるのは簡単ではありません。

「大学スポーツのビジネス化」についても、分科会での検討段階でまだ具体的な活動は進んでいないのが現状です。

(※1)アスリートがスポーツ選手としてのキャリアと、競技活動以外でキャリアを現役中から形成・両立すること。
Averageの略称。アメリカの高校・大学などで一般的に使われている成績評価方法の一つで、各科目の成績から算出される。

(※2) Grade Point

競技横断型大学対抗戦「UNIVAS CUP」とは?

競技横断型大学対抗戦「UNIVAS CUP」とは?
UNIVASに加盟している追手門学院大学 男子ラグビー部

「UNIVAS CUP」の概要

(編集部)UNIVASの事業活動として「UNIVAS CUP」もありますが、これはどういったものでしょうか?

(吉田先生)日本の大学スポーツにおいては、競技ごとに統括する協会や連盟などの組織が存在しています。さきほどUNIVASに32の競技団体が加盟していることを紹介しましたが、UNIVASは大学と競技団体の両方を統括することで大学スポーツ全体を統括しているわけです。

「UNIVAS CUP」は、この32の競技団体がそれぞれ開催する大会での大学の順位をポイントとして換算し、獲得したポイントを合計して大学別総合ランキングを決めようというものです。これまでのように「競技ごと」ではなく、「競技横断」で32の競技全体をとおして「大学スポーツ日本一の大学」を決定するのは初めてのことです。大会そのものは各競技団体が開催するので開催時期や場所は異なります。競技人口の少ないマイナースポーツの大会では参加大学が少なく、逆にメジャースポーツでは多いため、参加大学が多い大会ほどポイント配分を高くするなどの制度を設けて公平性を保っています。

参考: 「UNIVAS CUP」について

「UNIVAS CUP」の成果と課題

(編集部)UNIVASの公式ホームページでは、「UNIVAS CUP2020-21」最新の順位を見ることができます。2021年1月12日時点では、1位が早稲田大学、2位が東海大学、3位が日本体育大学、4位が立命館大学、5位が天理大学ですが、振り返ってみていかがですか?

(吉田先生)まずは、大学スポーツ全体に関わる表彰制度をつくり、実施できたことは一つの成果だと言えます。マイナースポーツに関しては、知名度アップに多少なりとも貢献できたかもしれません。ただ、個々の大学は例年どおり各競技団体が開催する大会に出場しただけなので、従来との違いやメリットを感じているかというと残念ながら疑問も残ります。加盟大学・競技団体にとってUNIVAS加盟の意義をもっと感じてもらい、一緒に盛り上げるしかけづくり必要ではないでしょうか。

「UNIVAS」と全米大学体育協会「NCAA」との違い

「UNIVAS」と全米大学体育協会「NCAA」との違い
NCAA傘下大学のバスケットボールの試合(出典:NCAAオフィシャルサイトhttps://www.ncaa.com/)

UNIVASがモデルとしたNCAAとは

(編集部)冒頭にもありましたが、UNIVASは「日本版NCAA」を目指して発足したとのことですが、このNCAAについて、設立経緯や仕組み、運営体制、加盟大学などを教えてください。

(吉田先生)1900年代初頭のアメリカでは、アメリカンフットボール選手の死傷事故が多発していました。これを受けたセオドア・ルーズベルト大統領が大学関係者に改革を要求したことから、1906年にNCAAの前身となるIAAUS(合衆国大学間運動協会:Intercollegiate Athletic Association of the United Statesの略称)(※3)が発足、1910年にはアメフト以外の競技も含む大学スポーツ全体を統括する組織となりました。

(※3)1906年に大学スポーツ改革促進を目的に発足した協会。現在のNCAAの前身。

現在、NCAA には1200校以上の大学が加盟しています。大学の集合体である「カンファレンス」を統率し、各競技の大会も全て統括しています。年間1000億円もの収入があり大学スポーツがビジネスとして成り立っています。ちなみに収入の90%近くはバスケットボール・トーナメントの放映権料です。一方、日本の大学スポーツは、課外授業の一環という位置付けであり、これまでビジネスというイメージがありませんでした。日本でも関東学生陸上競技連盟が主催する「箱根駅伝」や日本学生アメリカンフットボール協会が主催する「甲子園ボウル」、東京六大学野球連盟による「大学野球リーグ」など、収益を生んでいる大会もありますが、あくまで各競技団体が開催するものであり、UNIVASの収益には当然つながりません。アメリカでは、NCAAが大学スポーツを一元的に管理して巨大なビジネス市場を形成し、そこでの収益を加盟大学に分配することで、大学スポーツ全体を支えているのです。

参考:NCAA(全米大学体育協会)オフィシャルサイト

UNIVASにはないNCAAの特徴とは?

(編集部)大学スポーツのビジネス化という点においてだけでも、UNIVASはまだまだNCAAに学ぶ必要があると感じますが、他にNCAAのどのような点に注目していますか?

(吉田先生)UNIVASとNCAAは設立の経緯から運営体制まで大きく異なるわけですが、学生に対する支援体制も異なります。1990年代、アメリカでは学生アスリートの引退後のキャリア形成が問題視されたことから、NCAAでは学業とスポーツの両立を促すチャンプス・ライフスキルプログラム(人格形成プログラム)(※4)を導入しました。学業優先を大前提として、リーダーシップ教育やキャリア設計、ビジネスマナーなどを学べるさまざまな育成・訓練プログラムを充実させました。

(※4)学生アスリートが、大学卒業後の生活において様々な分野へ進んでも、 成功する為に必要な要素としてバランスの良い人間的な成長を考えて作られたもので、ジョージア工科大学のトータル・パーソン・プログラムがモデルとなっている。

また、NCAAでは学生数や財力、大学の実力によって3つのディヴィジョン(※5)に分けられています。基本的にディヴィジョン間の入れ替えはありません。ただ、大学によっては、優秀な選手が所属しているにも関わらず、学業優先の考えからあえて下位のディヴィジョンに所属する大学もあります。さらに、アメリカの大学スポーツは秋・冬・春の3つのシーズンだけスポーツ活動を行う「シーズン制」。日本と違って、年中一つの競技を続けることはできないので、オフシーズンは学業に専念できますし、全員が同じルールのもとで活動することで公平性や安全性確保につながっています。

(※5)各国のスポーツなどでみられるリーグの階級

このシーズン制は、少子化が進む日本でも有効でしょう。一人一人がシーズンごとに異なるスポーツを選択できれば、競技人口の確保にもつながります。また、過剰な練習によるケガを防止するほか、多様なトレーニングによってバランスの良い身体や多様性を育むことも可能ではないでしょうか。

「UNIVAS」のこれから。提言と課題。

UNIVASがめざす大学スポーツのビジネス化についてアメリカの事例を紹介した吉田良治客員教授の「スポーツマネジメント論」
UNIVASがめざす大学スポーツのビジネス化についてアメリカの事例を紹介した吉田良治客員教授の「スポーツマネジメント論」

UNIVASに求められること

(編集部)これからのUNIVASに必要なこととは何でしょうか?

(吉田先生)短期的には、①安全性の確立②学業基準の検討③公平性の確保を進めること。特に、教育的見地から考えても、UNIVASの設立目的を理解してもらう上でも、②の学業基準の検討は早々に進めるべきだと思います。UNIVASが先導してこれを定めることで公平性を確保できれば、加盟大学の増加だけでなく、大学スポーツはより開かれたものになり、全体のレベルアップや活性化につながるのではないでしょうか。

一方で、「ビジネス化」という点では、大学・競技団体の合意が不可欠なため、まだまだ時間がかかると思います。NCAAの単なる模倣ではなく、文化や歴史の違いに合わせて良いところを取り入れながら、社会に受け入れられる組織づくりを進めなければいけません。

UNIVASに学生の意見を

(編集部)吉田先生は、NCAA傘下のワシントン大学へのアメリカンフットボールコーチ留学を経て、長年スポーツを通したリーダーシップ教育や“生きる力”の育成に携わっていますが、そうした経験もふまえていかがですか?

(吉田先生)今回のUNIVASの動きは、主役である学生が置き去りにされ進んできた感があります。UNIVASは学生の意見を取り入れるべきだと思います。私が大学で担当したスポーツマネジメント論の授業では、受講した学生がスポーツ環境の改善に関する「学生版国への提言」をまとめており、文部科学大臣、スポーツ庁、UNIVAS関係者に働きかけを続けています。学生スポーツの現場の意見を反映すること、主役の学生の思いを大切にすることも、日本の大学スポーツの発展には欠かせません。

取り組むべき課題は多いですが、新たな動きだけに大いに期待したいですね。

まとめ

「日本版NCAAをつくろう」と始まったUNIVASですが、日本とアメリカでは大学スポーツのとらえ方・考え方が大きく異なることもあり、組織は発足したものの加盟大学の足並み一つをとっても、一筋縄にはいかないと感じました。
アメリカでは大学スポーツが国民的な関心を集め地域に根付き、ビジネスとして収益をあげています。その収益は安全性や公平性の確保、学業との両立を促す育成プログラムの充実といった基盤づくりに還元され、より質の向上が図られる循環を生み出しているのではないでしょうか。一方日本は、大学スポーツを課外活動の延長ととらえている大学もまだ多いと感じますが、大手大学の中にはスポーツメーカと連携してビジネス化も含めた新たな取り組みを始めたところもあります。UNIVASは後発だけに、加盟・非加盟を問わずに個別の大学との調整だけでも大変さが感じられますが、そもそも日本の大学スポーツは今後どうあるべきなのか、大学の枠を越えて大学自身が自発的に議論する必要もあるように思いました。

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プロフィール

吉田 良治

吉田 良治 (よしだ よしはる) 追手門学院大学 客員教授 専門:スポーツマネジメント論、コーチング、チームビルディング、スポーツマンシップ、ライフスキル

1986年 追手門学院大学経済学部 卒業
1998年 ワシントン大学へアメリカンフットボールコーチ留学
2007年~2010年 京都産業大学アメリカンフットボール部コーチ
2010年〜 日本アメリカンフットボール協会公認指導者研修でインストラクターを担当
2013年~ 追手門学院大学 客員教授
2018年~2019年 UNIVAS設立準備委員会・学業充実・学習機会確保の部会委員
2020年~ 佛教大学非常勤講師

現在、大学スポーツマネジメント研究会理事、日本アメリカンフットボール協会指導者育成委員会副委員長、日本アメリカンフットボール協会フェアプレイ推進委員会委員、ホーマー・ライスリーダーシップアカデミートータル・パーソン・プログラムファシリテータ
著書に『ライフスキル・フィットネス――自立のためのスポーツ教育』(岩波ジュニア新書)、『日本の大学に入ると、なぜ人生を間違うのか――アメリカの成功者たちが大学時代に学んでいること』(PHP研究所)『スポーツマネジメント論――アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ』(昭和堂)、『スポーツマンシップ・フィットネス 1.0』(学林舎)、共著に、『ライフスキル教育――スポーツを通して伝える「生きる力」』(昭和堂)、出版協力に、『実践!グッドコーチング――暴力・パワハラのないスポーツ指導を目指して』『実践!グッドコーチング・ジュニア指導編――暴力・パワハラのないスポーツ指導を目指して』(PHP研究所)がある。
論文:『スポーツ運営を機能させる5つの要素』(追手門学院大学スポーツ研究センター紀要)
論考:『日本の大学スポーツ新時代――大学スポーツの産業化・日本版NCAAが意味するもの』(PHP研究所 Voice 2017年4月号)、『スポーツに暴力は必要ない』(PHP研究所 Voice 2018年5月号)

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