2019年の消費税率引き上げを受け、キャッシュレスポイント還元事業が始まりました。この事業が終わる2020年7月以降、マイナンバーの普及促進活動が活発になるとみられますが、浸透が十分とはいえません。そもそも、これらキャッシュレスに関する事業とはどのようなものなのでしょうか。今回は元造幣局理事長で名古屋国税局長も務めた税やお金の専門家、経営学部教授の百嶋計先生に話を聞きました。
INDEX
キャッシュレスポイント還元事業とは?
そもそもねらいとは?
(編集部)キャッシュレスポイント還元事業はどのようなねらいで始まったのでしょうか?
(百嶋先生)2019年の10月に消費税率が8%から10%に増税されました。この増税に伴って消費者の皆さんの消費を平準化させようというのが大きなねらいです。
消費増税のときには必ず駆け込み需要があり、増税後にはその反動で消費が減少します。この経済への打撃を軽減させるために9か月間限定で始まったのが今回のキャッシュレスポイント還元事業です。
また、これに合わせてキャッシュレス化の推進を、数値目標を掲げて進めようとしています。具体的には大阪万博開催が予定されている2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高めようとしていますが、2019年時点では約27%にとどまっています。
ポイント還元の恩恵
(編集部)キャッシュレスポイント還元事業は成功したのでしょうか?
(百嶋先生)今回のコロナの影響によって、せっかくのポイント還元事業の経済効果が見えにくくなっているように思います。
まだコロナの影響がなかった2019年12月から2020年の1月だけを見てみると、コンビニやドラッグストアの売り上げは消費増税にもかかわらず前年を上回っています。その後コロナの感染拡大で外出自粛期間に突入し、コンビニの売上は減少しました。一方で、ドラッグストアは売り上げが増加。これは、ポイント還元の関係の影響も少なからずあるかもしれませんが、ウイルス対策商品の影響もあるのではないでしょうか。
また、スーパーマーケットは増税後に苦戦していましたが、コロナの感染拡大期には対前年比大幅増になっています。これはステイホーム需要が大きいと考えられます。
このように特殊事情によってキャッシュレスポイント還元事業の効果が見極めにくくなっていると思います。しかしいずれにせよ、2019年度・2020年度の当初予算や補正予算で、合計すれば約7,000億円がキャッシュレスポイント還元事業のために計上されています。
今発表されているデータでは、増税後から今年の3月上旬までの5か月間で約3,000億円が消費者に還元されています。このデータから見てもわかるように、ある程度消費者の負担軽減に一役買ったのではないかと思います。また、この間の還元対象キャッシュレス決済は約7.2兆円に上り、キャッシュレス化を後押ししています。
マイナンバーカードとマイナポイント
マイナポイントは必要?
(編集部)では、2020年の7月から始まったマイナポイント(※)のねらいとはどのようなものなのでしょうか?
(※)国から決済事業者を通じて付与されるポイント。20,000円で5,000円(上限)付与。申請にはマイナンバーカードとマイキーIDが必要。(マイナポイント事業HP https://mynumbercard.point.soumu.go.jp/)
(百嶋先生)マイナポイントもキャッシュレスポイント還元事業と同様、個人消費を切れ目なく下支えし、消費を活性化するというねらいで開始されるものです。またそれに加え、マイナンバーカードの普及拡大というのも大きなねらいです。
そもそもマイナポイントは、東京オリンピック・パラリンピックの終了に伴い消費が減少することを予測して開始される予定でした。また、キャッシュレスポイント還元事業に替わる後継策として導入しようという考えもあったでしょう。
今回、東京オリンピック・パラリンピックがコロナの影響で延期になったことで、キャッシュレスポイント還元事業を継続し、マイナポイントは2021年のオリンピック開催後の実施でもいいのではないかという提案もありました。しかし、2020年の当初予算で2,500億円がすでに計上されているということで、マイナポイントの方を実施しようという運びになったのではないかと思います。
マイナンバーカード普及に必要なもの
(編集部)マイナンバーカードが普及しない理由は何なのでしょうか?
(百嶋先生)実は私は国税庁の課長として、草創期のe-Tax普及という電子政府を推進する業務に関わりました。当時はそのために「住基カード」の取得を進めていましたがなかなか普及しませんでした。その時の経験から、当時は住基カードのメリットや便利さについて国民への説明が不十分であったことや、そもそも住基カードへの信頼が十分に得られていなかったという面が大きかったと思います。
その後マイナンバー法は、2013年に成立しました。この法律の目的は「異なる分野に属する情報を照合して同一のものにかかる情報かどうかを確認できるようにする」ことです。つまり、これによって何が実現できるかというと、行政運営の効率化と各種手続きの簡素化による国民の負担の軽減です。
もう一つの目的は、「公正な給付と負担の確保」と法律に明記されています。このことから、国民の多くが懸念しているのは、資産の把握が進むのではないかということ。このようなマイナンバーへの不安要素の印象が強い一方、カードによる利便向上のメリットが十分伝わっていないことが、マイナンバーカードの普及に至らない大きな理由ではないかと考えています。
このマイナンバーカードは国際標準の認証を取得するなどセキュリティもしっかりとしているのですが、セキュリティ面が心配だという声もあるようです。今回、マイナンバーカード自体の問題ではないのですが、特別定額給付金の申請システムにトラブルがあったり、また日頃マイナンバーカードを使わないのでパスワードを誤入力してロックされてしまうなど、残念な事態が生じてまたイメージが悪くなってしまいました。やはり、今後マイナンバーカード普及を推進するにあたっては、政府への国民の信頼を一層高め、マイナンバーカードのネガティブなイメージを払拭していくことが必要ではないでしょうか。
マイナンバーカード取得のメリット
(編集部)マイナンバーカードを申請することによって得られるメリットにはどのようなものが挙げられますか?
(百嶋先生)すでにマイナンバーカードによって、様々なサービスが受けられるようになっています。マイナンバーカードには電子チップの中に電子証明書が搭載されており、オンライン申請やマイナポータル登録時に使えます。今度マイナポイントを得るためには、マイナポータルの登録が必要ですからマイナンバーカードが必要になるのです。
さらに今後、民間のオンライン取引にも利用できるようになります。
マイナンバーカードの証明写真がある面は公的な身分証になります。現在は免許証が使われることが多いですが、本人確認の身分証明書に使用することができます。
また、多目的カードとして使えるのですがこれが非常に便利です。例えば、健康保険の保険証として使用できたり、図書館の貸し出しカードとして使うこともできるようになっています。政府では、運転免許証のマイナンバーカードへの一本化についても、検討を始めました。
これは私もよく利用するのですが、コンビニで住民票など各種証明書の取得ができます。コロナ禍の今、市役所や区役所に行って証明書を貰うことは非常に大変ですよね。自宅近くのコンビニで取得できる。しかも全国どこででも、夜でも休日でも取得できるのは大きなメリットです。さらに、コンビニでの発行は、役所に行くよりも手数料が安く設定されているので大変便利です。
自治体によってサービスの内容にばらつきがありますが、対象が年々拡大してきています。これを機にマイナンバーカードを取得してみてはいかがでしょうか。今後の展望
新型コロナの打撃を受け国民に一律10万円が給付されますが、まだ受給できていない人も多く、これに関連してマイナンバーカードの普及率の低さも浮き彫りになりました。6月末で終了したキャッシュレスポイント還元事業と7月から始まったマイナポイント。元造幣局理事長としては、硬貨が使われなくなるのは寂しいですが、キャッシュレス化の流れは今後も続きます。合わせてマイナンバーカードが普及、デジタルガバメント化が加速して、私たちがその利便性を実感でき、ビジネスの効率化・ゆとりある暮らしにつながっていけばと願っています。