新型コロナがもたらしたオンライン授業。リモート化したコミュニケーションの「笑い」とは?

高垣 伸博

高垣 伸博 (たかがき のぶひろ) 追手門学院大学 国際教養学部 国際日本学科 教授専門:マスコミ論、放送演芸論

新型コロナがもたらしたオンライン授業。リモート化したコミュニケーションの「笑い」とは?
(写真:PIXTA)

新型コロナの影響で、大学の授業はオンラインに切り替わり、新しい時代へ向かうスピードが加速しています。リモートワークやオンライン飲み会に見られるように、私たちのコミュニケーションのあり方は変わっていくのでしょうか。今回は、テレビ局で落語番組などの制作に長く携わり、「笑い」の研究をしている、国際教養学部教授・高垣伸博先生に話を聞きました。

オンラインでの「笑い」

オンラインでの「笑い」
(写真:PIXTA)

ソーシャルディスタンスのないところに生まれるもの

(編集部)新型コロナの影響で大学の授業はオンラインになっていますが、先生はどのように感じていますか?

(高垣先生)日々奮闘しています。私の授業は一人ひとりにしゃべらせないとうまくいきませんが、最近の学生はしゃべるのが苦手になってきているように感じます。

会話はソーシャルディスタンスのないところに生まれるものです。「間」「ジェスチャー」「目配せ」がないとうまくいきません。学生も要領を得て、カメラをオフにした状態で入ってきますから、本当に聞いてくれているのかもわからない。空気がバラバラなところに向けて発信するオンライン授業は難しいです。少人数のゼミでも、コミュニケーションと呼べる状態にはまだ達していません。情報の伝達はできますが共感を得にくい。面白いことを言っても、伝わりにくく難しいですね。

笑いに変えることの難しさ

(編集部)新型コロナの影響で外出自粛になり、「オンライン飲み会」などが話題になりました。オンラインでは笑いが成立しにくいのでしょうか?

(高垣先生)笑いのあるコミュニケーションには、特に『間』が大事になってきます。わざとかぶせてしゃべるとか、あえて間を空けるとか。オンラインだとタイミングが微妙にずれるので難しい。面白さが成立しにくい部分です。

対面でしゃべる時も多少の距離感はあるものですが、オンラインは会話のエンジンがかかるまで、さらに時間がかかるような気がします。同じことを言っても、おもしろさは7割くらいに留まっているようにも感じますね。

親しい人と話す時ほど、あうんの呼吸で会話のテンポが速くなると思います。現時点のオンライン環境だと通信が途切れることもありますよね。それで「えっ、何?」と聞き返す。同じ場所で一緒に飲んでいる時なら「大事なとこ聞き逃してどうすんねん!」と言って笑いに変えることができますが、オンラインだと「いやちょっと接続が…」「あっ、そっか…」となってしまう。普段なら笑いにできるものもできなくなってしまうわけです。

オンライン授業とコミュニケーション

オンライン授業とコミュニケーション
オンラインによるゼミ授業の様子

100名規模のコミュニケーション授業

(編集部)先生はオンライン授業でどのような工夫をされていますか?

(高垣先生)対面の授業でも、学生に退屈させないように気を付けていますが、リモートだとどうするかを日々考えているところです。

私の授業に「笑いとコミュニケーション」というカリキュラムがあり、対面の時は、グループでできるだけしゃべってもらうようにしていました。去年は30名ほどでしたが、今年は100名くらいに増えました。そして、このタイミングでリモートになってしまいました。30名くらいまでの授業なら、名指しで答えてもらうことはできますが、特にワークショップ系の授業は難しい。

例年通り授業が対面で行われていたのなら、学生に『謎かけ』や『ダジャレ』を実践させ、最終的には漫才を体験してもらうつもりでした。しかし、この半期は授業をしながら悩みました。この機会に様々な方法を試行錯誤すれば、オンライン授業ならではの良い授業方法を見出せるかと思います。

本格的なオンライン授業に向かうために

(編集部)いま、映像での情報発信で多くのYouTuberが注目されていますが、オンライン授業をする大学教員がYouTuberから学べることはありますか?

(高垣先生)YouTuberは、不特定多数を相手にコンテンツを発信しています。大学教員は特定の少数が相手ですから、目的が少し違ってきますね。話の引き付け方などのテクニックは学ぶ部分もあると思います。芸人や授業の上手な先生、世のすべての話し手から学ぶことと同じですね。

(編集部)今のリモート化の流れは、コロナ収束後も続くでしょうか?

(高垣先生)オンライン会議は続くかもしれませんが、飲み会は「オンラインで十分!これからもオンラインで飲もう!」とはならないでしょう。コミュニケーションは肌と肌が触れ合う距離にいてこそ成立するもの。会議は目的が決まっているものなので、別物です。

大学の授業は、リモート化を進める動きが見受けられます。学生に授業以外のことも色々経験させる時間の余裕をもたせるのが目的です。ただし、通学を無くすというのではなく、そこで生まれた時間で何をするかまで考える必要がありますね。

他にも考えなければいけないことはたくさんあります。例えば、現在Wi-Fi環境の問題で、オンライン授業に入れない学生もいます。こういった不平等が生まれないようにしていくことが課題ですね。対面授業と同等の学びの成果を学生たちが得られるよう、私たちも考えていかなければなりません。

笑い?聞き上手?コミュニケーションの極意とは

(編集部)最後に、ずばりコミュニケーションの極意を教えてください。

(高垣先生)『話し上手は聞き上手』これに尽きるでしょうね。

人の話をよく聞くことで、次の話をうまく展開できるようになります。聞くが8割と思ってまず聞く。聞いた上で、自分がどこで乗るか様子を見る。後から会話の輪に加わった時はなおさら、うまく入るためにまず聞くのが大事です。

クローズド・クエスチョンをしないのもコツです。「はい」か「いいえ」で答えられる質問は、ひと言で終わってしまい、会話が続きません。オープン・クエスチョンをして相手にしゃべってもらうと会話が自然に続きます。これは自分がしゃべりたい時にもいいですよ。まず相手に質問することで、あとで自分にも同じ質問を振ってもらえます。特に自慢話をしたい時は、自分がしゃべりやすい環境を作ることができます。

ギャグやツッコミも、相手の話をよく聞いて、どのように言葉を拾うかに尽きます。細かいことを拾うことで予想外の笑いが生まれるわけですから。とにかく「聞いてなんぼ」です。

まとめ

「笑いのあるコミュニケーションは同じ空間にいてこそ」という高垣先生の意見は、コロナの影響で友人との食事もままならない今、多くの人が共感するものではないでしょうか。オンライン・オフライン、どのような環境でも、聞き上手なコミュニケーションを目指したいですね。

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プロフィール

高垣 伸博

高垣 伸博 (たかがき のぶひろ) 追手門学院大学 国際教養学部 国際日本学科 教授専門:マスコミ論、放送演芸論

1978年 関西学院大学 文学部 フランス文学科 卒業
1978年~ 毎日放送入社 制作局 アナウンサー室 アナウンスセンター長 アナウンス室長
2015年~ 追手門学院大学 社会学部 社会学科 教授
2017年~ 追手門学院大学 国際教養学部 国際日本学科 教授
著書に『 いとしこいし漫才の世界 』(共著.2004)

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