Z世代の就活はどう変わる!?就活30年史から見えたこと

妹尾 麻美

妹尾 麻美 (せのお あさみ) 追手門学院大学 社会学部 社会学科 准教授専門:教育社会学・労働社会学

Z世代の就活はどう変わる!?就活30年史から見えたこと
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日本の労働市場は、社内で人材が動く内部労働市場型といわれ、長期雇用を前提としてきました。学校を卒業して就職すると長期で雇用されるため、多くの人にとって新卒での就職活動は大きなライフイベントにもなっています。 バブル崩壊後「失われた30年」と言われるなかで、大学生の就活やキャリアに関する意識はどう変化したのでしょうか。また、「自分らしさ」を大切にし、幼いころからスマートフォンにふれるなど、SNSやYouTubeから情報を得ることに長けたZ世代の就活は、これからどう変化していくのでしょうか。

今回は、バブル崩壊後から30年間の就活情報がどのようなライフコースを提示してきたのかを分析し、日本の職業規範の変容を明らかにしようと試みている妹尾 麻美社会学部准教授に聞きました。

バブル崩壊を境に大きく変わった就活事情

バブル崩壊を境に大きく変わった就活事情
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企業からの会社案内でスタートしたバブル崩壊前

(編集部)バブル崩壊後、日本経済は「失われた30年」と言われますが、まずはバブル崩壊前の就職活動の状況を振り返っていきたいと思います。

(妹尾先生)“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と言われた80年代、就職への価値観も就職活動の構造も現在とは違っていました。日本を代表する教育社会学者の一人である竹内洋先生の著書「日本のメリトクラシー」で論じられた「学歴社会論」のように、1970年から80年代は多くの人が学歴獲得競争に巻き込まれ、学歴によってある程度典型とされる人生プランがあり、そこに所属すれば人生が決まっていく時代でした。

就職活動では、学生に企業から声がかかった時代です。会社案内は大学別に送付され、女子学生には送付すらされない、という形でセグメントされていました。1991年に公開された織田裕二主演の映画「就職戦線異状なし」ではこうしたバブル期の就活の様子が描かれています。

(編集部)今とは全然違いますね。

(妹尾先生)これがバブル崩壊後、徐々に変わってきました。社会の構造的な変化を背景に、労働市場そして就職活動にも変化が起きます。景気悪化で各社が採用を抑制するなか、大学生ができるだけ多くの企業に応募したいと考える流れとなり、またそれを加速させたのが「リクナビ」のような就職ナビサイトの登場でした。リクナビのサービス開始は1996年です。企業にとっても学生にとってもはるかに効率的なシステムですから、一気に普及していきました。

(編集部)「リクナビ」などの就職ナビサイトは今でも使われていますね。

(妹尾先生)時代とともに、新卒の求人倍率の低下や企業側の採用活動のゆらぎはありましたが、2000年代半ばから、合同企業説明会を皮切りに就職ナビサイトが主導するという就活の流れが固まってきました。

2000年代から始まった大学での「人生設計」支援

(妹尾先生)また、2000年頃からは大手私立大学が『就職部』の看板を次々と『キャリアセンター』へ変更していきました。これは、大学進学率の上昇と就職内定率の低下が要因として考えられています。「若者は就職できるはず」と考えてきた大人が「若者は就職しない、就職できない」という目線に変わり、それに伴い「早い時期からの生き方支援が必要」という動きが出てきました。

この流れ自体は日本だけでなく、先進諸国に共通する産業構造の変化のなかで欧米圏の研究においても指摘がなされています。

このあたりから、多くの大学が職業教育やキャリア教育に関する科目を開講し、自らの「やりたいこと」に焦点があてられるようになりました。学生時代に生き方、「やりたいこと」を考えよう、そして企業の価値観との適合性をはかろうと「自己分析」が、就活の場面で普及していきました。

「やりたいこと」起点のロジックは変わらない

「やりたいこと」起点のロジックは変わらない
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企業への忠誠心?学生たちが感じる矛盾

(編集部)「やりたいこと」に焦点を当てた就活は、今も多くの場面でありますよね。先生は「やりたいこと」と内定取得との関連を研究されています。

(妹尾先生)私の専門である社会学をベースに、心理学や経営学でも研究対象とされるようなテーマを扱っています。学生には「やりたいこと」が求められるなか、内定取得や実際の仕事とどう結び付いているか、労働市場との関係については十分に捉えられてきませんでした。

「自分らしさ(やりたいことや将来設計)」を求められる一方で、面接の場面では会社への忠誠心を求められることに違和感を感じる学生もいます。

(編集部)自分の「やりたいこと」を、企業の求める方向に合わせようとしているということですか?

(妹尾先生)就職活動の過程では、「やりたいこと」をうまく調整するようなロジックが求められていると思います。長期雇用を前提とした新卒採用において、企業は熱心に働いてくれる人がほしいというロジックのもと、「会社での仕事を自らのやりたいこととして語ることができる意欲のある学生を求める」という思いを感じます。

私はこれまで就活中の学生に対して時系列で3回インタビュー調査を行い、就活生が内定を得るまでに、どう語りが変わっていくのかを分析しました。

就活生は、もともと確固とした「やりたいこと」があるというよりも、就活中に多様な情報に触れるなかで「これをやりたいこととして語るべきだろう」と理解し、調整していきます。そしてマニュアルなどから、企業の価値観を「自分のやりたいこと」として語る方法を学び、習得していくと思われます。

30年間で変わったのは女子学生の就活事情

30年間で変わったのは女子学生の就活事情
妹尾先生が研究対象とする1990年代のファッション誌「JJ」に掲載された就活記事

ファッション誌「JJ」に見る女子大生の就活

(編集部)この30年間で、大きく変わった部分はいかかでしょう。

(妹尾先生)この30年を見ると、女子学生の就活はとりわけ変化が大きかったと思います。私自身も「就職」について「ジェンダー」の視点から研究しています。とりわけ、バブル崩壊後の就職情報誌やファッション雑誌「JJ」などでの就活記事を分析しています。

(編集部)「JJ」ですか。女子大生の読者モデルをたくさん輩出してきた雑誌ですね。

(妹尾先生)以前は「就職ジャーナル」という雑誌を用いて、女性向け記事の分析を行っていました。もう少し広く記事を探していたところ、「JJ」が継続的に就職に関する記事を取り上げていることがわかり、30年間の変化を追っています。

例えば、90年代、就職活動中に女性にサポート的な仕事を求めていると気付いた、など女子学生の活動体験談が記事には書かれています。当時の大卒女性職種は主に秘書・営業サポート・窓口業務、その上司には男性がいるという性別職域分離がはっきりしていた時代であることが見てとれます。

1986年には男女雇用機会均等法が施行されましたが、1990年代初頭、総合職に就く女性はごくわずかでした。女性の4年制大学進学率が上昇するなか、2000年にかけてようやく総合職に就く女性が一定数出てきました。

そして2020年3月の「JJ」の特集記事は「好きを仕事にする」です。かつての「JJ」を知っている人が見ると信じられないような誌面で、ファッション誌というよりも就職ガイドブックのような内容が並びます。女子学生のキャリア選択がこの30年で大きく変化してきたことがよくわかります。

総合職も選べるいま、女子のキャリア選択は?

(編集部)すごい変化ですね。今の就活では一般職採用の数も少なくなっているように感じますが。

(妹尾先生)確かに30年前と比べれば大きく変化していますね。ただ、就職前に一般職か総合職、どちらを選ぶかを考えるのはいまだに女子学生だけなのではないでしょうか。 近年は企業の子育て支援制度も整ってきましたが、たとえ総合職を選択したとしても、産休・育休から復帰したとき昇進・昇格から外れてしまうマミートラックにされる可能性もあるのでは? と考える就活生も少なくないでしょう。

企業自体はジェンダー平等に向けた取り組みなどを行っていますが、労働市場にどれだけのインパクトを与えるか、そして当事者の意識自体にどういった変化が現れるかは、今後注視すべき点だと思います。

【参考】ファッション誌「JJ」の就活記事

Z世代の就活はどこが違う?どうなる?

Z世代の就活はどこが違う?どうなる?
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就職ナビサイトの限界と逆求人サイトの台頭

(編集部)ここまで30年間の動きをみてきましたが、今後についてもお伺いします。今の若者世代、とくにZ世代の就職活動の形に何か変化はあると思われますか。

(妹尾先生)これまでの就活は、リクナビやマイナビのように企業が発信する採用情報に学生が応募する形でしたが、多数の情報の中から選びとる従来のモデルが、企業にも学生にとっても限界に来ている状況があります。「たくさんの選択肢から企業を選べる」が、実際には「選びきれない」学生が多いのではないかとみています。

そこで、最近注目されているのが「逆求人型ナビサイト」です。リクナビやマイナビのように企業が発信する採用情報に学生が応募する求人情報サイトではなく、企業が興味を持った学生に対してオファーを送る就活サービス。スカウト型とも言われます。

コロナ禍前から逆求人型ナビサイトが使われる兆しが見えており、実際に使っているZ世代の学生も多く、今後一定の普及を見せるのではないかと考えています。

(編集部)確かに、今の時代は膨大な情報ではあふれていますから、探すのも大変ですよね。

(妹尾先生)とくに、Z世代は幼いころからスマートフォンを使い、YouTubeに動画を「おすすめ」されるのが当たり前の環境で育ってきています。視聴履歴や位置情報などでパーソナライズされることを前提に生活しているZ世代にとって「就職先を選べと言われても」という気持ちがあるのではないかと見ています。

その点、逆求人型では、自分のPRを出しておけば説明会に参加しなくても企業からオファーがくるといったスタイルです。手間も省けますし、スカウトを選びたくなる学生の気持ちもわかります。

「おすすめ」が当たり前のZ世代のこれから

(編集部)就活において「おすすめ」に頼りすぎるのはどうなんでしょうか。

(妹尾先生)企業の採用効率としては良いかもしれませんが、出身大学の偏差値やイメージによって企業や業種などが固定化されていく懸念もはらんでいます。「おすすめ」を受け取るということは、個人がターゲットとして分析されているわけで、見えない形で自分のルートが決められていくという点は否めません。

(編集部)なるほど。これはまさに企業案内が大学別に送られてきたときの回帰ともいえますね。

(妹尾先生)デジタルになったとはいえ、そういう見方ができるかもしれませんね。とりわけ、今後も日本の内部労働市場の形が基本的に変わらなければ、おそらくキャリア選択のロジックは変わらないだろうと見ています。

政治や経済との関わりが深い労働市場は、そう簡単には変わりません。新型コロナウイルス感染症の拡大といった社会の変化のスピードに比べると、企業の人材育成や働き方のしくみの変化はゆっくりです。新卒採用において「やりたいこと」を調整していく流れや、キャリア選択のロジックはしばらく変わらないと見ています。

まとめ

“ジャパン・アズ・ナンバーワン”の時代からバブルが崩壊し、就職ナビサイトが普及。キャリア教育の導入など生き方支援を受けての就職活動において、自分のやりたいことと企業の価値観の適合性をはかる「自己分析」が重視されてきた流れがよくわかりました。

コロナ禍でデジタル化が急速に進み、もともとデジタルと親和性の高いZ世代が就活を迎えた今、既存の就職情報サービスが限界に来ていることは、新たな気づきでした。変化のスピードが遅いと言われる労働市場において、激しい社会の変化の中で今後どう変化していくのか、注視していきたいところです。

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プロフィール

妹尾 麻美

妹尾 麻美 (せのお あさみ) 追手門学院大学 社会学部 社会学科 准教授専門:教育社会学・労働社会学

2017年、大阪大学大学院人間科学研究科単位修得退学。2018年、博士(人間科学)取得。立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構専門研究員、同志社大学文化情報学部助教を経て、2022年より現職。現在は社会学的な観点から、大学生の就職活動や大学でのキャリア教育について、また就職活動過程における女子大学生のライフコース展望などの研究を行っている。

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