「ニュースの面白さは、見方次第」——日々移り変わる世の中の出来事を、追手門学院大学(大阪府茨木市)の教員らが専門的知見に基づいて読み解き、独自のニュースとして提示するニュースメディアOTEMON VIEW。今回は女子ラグビーです。
2019年にラグビーワールドカップ日本大会が開催され、人気急上昇中のラグビー。近年は、男子だけでなく「ラグビー女子」の競技人口が増えているのをご存知ですか? 「女子7人制ラグビー」は2016年のリオデジャネイロオリンピックから正式種目になっており、日本代表チーム「サクラセブンズ」として出場したことも話題となりました。
追手門学院でも、2013年に女子ラグビー部が発足。高校チーム、大学チームともに全国強豪校として実績を積み重ねています。一方で、バレーボールやサッカーなど他の女子スポーツに比べるとまだまだ知らないことも多い女子ラグビー。観戦したい人もプレーしたい人も、知れば楽しい基礎知識や見どころを紹介します。今回は、日本代表チームで13年間プレーし、追手門学院高校(大阪府茨木市)の女子ラグビー部を率いる辻本つかさ監督の解説です。
INDEX
日本の女子ラグビーを知ろう!
女子ラグビーの始まり
(編集部)日本の女子ラグビーは、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?
(辻本監督)日本で最初の女子ラグビーチームは、1983年に創設された「世田谷レディース」とされています。一説には地域のラグビースクールに子どもを通わせていたお母さんたちが「自分たちもプレーしたい」とチーム発足を後押ししたとも言われていますが、ラグビーを愛する様々な方の熱意が女子ラグビーを生んだんだと思います。
その後、1988年に「日本女子ラグビーフットボール連盟」が設立され、1991年の第1回・1994年の第2回女子ラグビーワールドカップに出場。その後、2002年にそれまで男子だけだった日本ラグビーフットボール協会に正式加盟したことで、日本代表チームを象徴する桜のエンブレムが使えるようになりました。
さらに、認知度を上げる上で大きなターニングポイントとなったのは、女子7人制ラグビーがオリンピックの正式種目になった2016年のリオデジャネイロオリンピックですね。30年以上の年月を経て徐々に競技人口を増やし注目されてきた女子ラグビーですが、近年の男子ラグビーの盛り上がりとともに、選手たちを取り巻く環境は格段によくなっていると思います。
女子ラグビーのルールと見どころ。試合時間や7人制の特徴は
(編集部)女子ラグビーのルールは男子ラグビーと異なる部分はあるのでしょうか?また、ラグビーには15人制と7人制がありますが、その違いも教えてください。
(辻本監督)女子ラグビーのルールですが、男子との違いはなく同じルールで試合をします。また、15人制と7人制(セブンズ)ですが、コートの広さやルールは同じです。7人制は人数が少ない分、コートが広く感じられますし、選手同士がぶつかり合うというよりはコートを縦横無尽に駆け回って相手を振り切るスピード感がより重要です。また見どころもそのスピード感にあると思います。
一方、異なるのは試合の時間です。15人制の試合時間は、前半が40分、ハーフタイムが10分、後半が40分です。7人制は前半が7分、ハーフタイムが2分、後半が7分で、ハーフタイム含めて16分で試合が終わります。試合の内容も試合時間自体もスピード感があるのが7人制です。それもあって、7人制は1日に2~3試合を行うのが一般的なんです。
女子ラグビーの大会。18歳以上のシニアと中高生の大会
(編集部)日本の女子ラグビーには、どのような大会が存在するのでしょうか。
(辻本監督)18歳を境に大会自体が分かれます。18歳以上がシニアとなりオリンピック日本代表はここから選出されることが多いですが、能力が高ければ高校生もあり得ます。
大学生の場合は大学の女子ラグビー部に所属する場合が多く、社会人は企業がスポンサーとなって地域に設立されているクラブチームに所属して、シニアの大会に出ます。クラブチームは全国各地にありますが、所属選手の人数や運営資金によって規模はさまざまです。最も大規模な7人制の大会の「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」の場合は、出場条件を満たす規模も実力もそろった12チームが出場します。
大学チームの全国大会は、2019年を例にすると「大学女子7人制ラグビーフットボール交流大会」があります。大学単体では、追手門学院大学のほか、日本体育大学、立正大学、八戸学院大学、四国大学、九州産業大学、国際武道大学が出場しました。ただ「交流」という名称のとおりで、ここには大学以外のクラブチームも参加しており、大学だけの対抗戦はまだありません。その意味では、大学チームにとっても「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」は重要で、大学チームとクラブチームが一堂に会し日本女子最強チームを決めます。
高校生以下では「全国U18女子セブンズラグビーフットボール大会」があります。同じく2019年の大会の場合、高校単体では追手門学院高校のほか、関東学院六浦高校、石見智翠館高校、京都成章高校、国学院大学栃木高校、佐賀工業高校、鳴門渦潮高校、開志国際高校が出場しています。
高校も大学も徐々にチーム数が増えてきましたが、学校別の対抗戦だけで全国大会が開けるにはまだまだ競技人口を増やす必要があると思います。
世界の女子ラグビー事情、世界の中の日本女子ラグビー
(編集部)世界の女子ラグビー事情、世界から見た日本代表チームのレベルや試合実績についてはいかがでしょうか?
(辻本監督)女子ラグビーの世界大会というと、7人制で競うオリンピックと15人制と7人制で競うワールドカップがあります。男子チームと同じような国が強いのですが、イングランドやニュージーランド、フランス、カナダなどが挙げられます。男子チームが強い国は女子チームの練習環境も整っているため、選手のレベルも高いです。2016年のリオデジャネイロオリンピックでの日本代表の順は出場12チーム中10位。2017年のアイルランドで開催された15人制のワールドカップでは出場12チーム中11位、2018年のアメリカで開催された7人制のワールドカップでは16チーム中10位でした。
ここ最近では2021年に延期になった東京オリンピックと、2022年に延期になったニュージーランドでの15人制のワールドカップの2つの世界大会が予定されています。東京オリンピックには開催国ということで出場が決まっていますが、ワールドカップはアジア予選を勝ち抜かなければなりません。今回から参加チームの枠が16チームに増え、アジア枠も1チームから2チームに増えることが決まっています。
日本代表チームにとっては、アジア予選突破の可能性が広がったことになりますね。アジア予選における最大のライバルはカザフスタン。ヨーロッパに近い国だけあって、日本人選手との体格差も大きい。そのほか中国や香港、タイ、シンガポールとの勝負も見どころです。
元日本代表が語る、女子ラグビー日本代表への道
13年間の日本代表選手時代を経て指導者へ
(編集部)辻本監督はどのようなきっかけでラグビーを始め、今に至ったのでしょうか?
(辻本監督)ラグビーを始めるきっかけは、身近にラグビー経験者がいたというケースが多いと思います。私は3人きょうだいなのですが、父、兄、弟がラグビーをしていました。でも試合や練習は一度も見に行ったことがなかったんです。大学生になり、何かこれまで経験したことのないスポーツを始めたいと思い、地元の「兵庫RSレディース」に入団し、経験を重ねるうちに、より高いレベルを目指したいと考え始め、日本代表選手を選抜するセレクションマッチにチャレンジして代表入りを果たしました。日本代表を務めた13年間で一番思い出深いのは、2009年のラグビーワールドカップセブンズ。スタメンに選抜され、同大会で初めて行われたアジア予選で優勝、ドバイでの試合に出場しました。
現在は追手門学院高校の女子ラグビー部監督、追手門学院大学の女子ラグビー部コーチとして、指導に尽力しています。生徒たちには、選手としてどれだけ優秀でも慢心せず、本学の生徒だという自覚をもって勉強にも励むよう指導しています。人として魅力のある、周囲から応援してもらえる選手を目指してほしいですね。
オリンピックで女子ラグビー日本代表を目指すには
(編集部)女子ラグビー日本代表チーム「サクラセブンズ」のメンバーになるまでの道のりはどのようなものでしょうか?
(辻本監督)中高生などの18歳未満の場合、各大会がセレクションとなり、日本ラグビーフットボール協会のユースアカデミーに召集されます。20人から30人ほどが集められ入れ替えもあります。その中で能力が高い選手、すでに日本代表候補となっている選手たちにも引けを取らないプレーをし、フィジカル面もしっかりしている選手は、「スコッド(※1)」と呼ばれる20人ほどの日本代表候補者のグループに選ばれます。
スコッドはユースアカデミーからの選抜のほか、「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」などで優れたパフォーマンスをみせた大学生や社会人の18歳以上のシニア選手からの選抜で構成され、この中から日本代表が選ばれます。メンバー登録できるのは7人制が12人、15人制が23人ですから、選手たちは両方に対応した練習をしています。だいたい7月から9月が7人制メインでその後が15人制という感じです。
かつては私のように代表候補のセレクションという道が普通にありましたが、今はユースアカデミーから着実に代表入りを目指すのが一般的です。追手門学院高校からもユースアカデミーに選ばれた選手が何人もいます。
(※1)おもにラグビーにおいて国代表チームなどを編成する際に、代表に選出される可能性の高い者を予め選抜して編成する選手集団。選手団や候補選手集団などとも説明される。
注目の強豪校は関東に多い?
(編集部)高校・大学の強豪校や注目している学校はどこでしょうか?
(辻本監督)大学は日本体育大学や立正大学、流通経済大学を注目しています。いずれも関東の大学です。追手門学院大学もチームの発足が早かったこともあり、「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」では上位に入る関西・西日本を代表する強豪校ですね。
高校では、島根県の石見智翠館高校や関東学院六浦高校、國學院大學栃木高校がライバルです。追手門学院の場合は高校と大学のチームが合同で練習をしており、高大7年間で成長をみることもできますし、選手同士も刺激を受けながら高い目標をもって取り組んでいます。オリンピック日本代表候補に選ばれた現役生やOGもいるんですよ。
今すぐ観戦したい・興味がある人注目!
女子ラグビーを見るなら
(編集部)女子ラグビーへの理解が深まりましたが、どこで観戦できるのでしょうか?
(辻本監督)まず2021年は東京オリンピックがありますね。公式ホームページによると、7月29日に開幕し7月31日までの3日間で決勝・表彰式まで予定されています。会場は東京スタジアムです。
次に「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」があります。2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により残念ながら中止になってしまいましたが、今年は2021年5月1・2日に東京から始まり、5月15・16日に静岡県袋井市の静岡エコパスタジアム、6月5・6日に埼玉県の熊谷スポーツ文化公園、6月26・27日は三重県の鈴鹿 サッカー・ラグビー場で大会が開催されます。東京の会場はラグビー専用球技場として知られる秩父宮ラグビー場です。最近は各クラブチームに海外からのスカウト選手が所属していて、彼女たちのプレーはダイナミックで見応えたっぷり。日本代表候補も多数出場しますので、女子ラグビーを肌で感じる機会になると思います。
大会・試合情報は日本ラグビーフットボール協会公式ホームページで随時お知らせしていますのでぜひチェックしてください。
ラグビー特有の激しいタックルやキレのあるステップ、広いコートを駆け抜けるスピード感は予想を上回るのではないでしょうか。年々レベルアップしていますから、「昔一度見に行った」という方も、今一度会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
まとめ
オリンピック種目入りを契機に注目を集める女子ラグビー。高校も大学もクラブチームも徐々に増えてきました。選手たちの指導体制やトレーニング環境、大会や制度面での整備が進み、レベルアップが図られています。女子チームの選手たちがコートを駆け巡り、迫力あるプレーをする姿を実際に観戦しに行きませんか。