コロナ禍のスポーツ。改めて問われる!グローバル視点でスポーツをとらえる意義とは?

追手門学院大学 社会学部上田 滋夢

コロナ禍のスポーツ。改めて問われる!グローバル視点でスポーツをとらえる意義とは?
イタリアでプレーする本田圭佑選手(2014年、ACミラン時代)

新型コロナウイルスの影響で多くのスポーツ活動が制限されています。野球ではペナントレースが終了し、サッカーはシーズンの終盤を迎え、海外移籍などが活発になる時期ですが、グローバル化が停滞する今、グローバルでスポーツを捉える価値があらためて問われています。今回は、かつてJリーグ名古屋グランパスの強化担当責任者を務め、当時高校生であった本田圭佑選手にいち早く注目した指導者で、その後解説者を経て、現在はクラブチームの会長兼監督としても活躍されているスポーツ社会学が専門の社会学部上田滋夢先生がグローバル視点でスポーツを捉える価値を解説します。

日本人スポーツ選手の海外進出

日本人スポーツ選手の海外進出
ドイツ ブンデスリーガーのフランクフルトでプレーする長谷部誠選手(2019年)

元Jリーグ強化担当責任者が考える3つの意義

(編集部)上田先生は、2003年から3年間、名古屋グランパスエイトの強化担当責任者として、まだ高校生だった本田圭佑選手の獲得をどのチームも注目していない時に既に決められたそうですね。本田選手のように海外に移籍し、活躍する姿を見てきたと思いますが、あらためて日本人選手が海外進出する意義とはどのようなものだと思いますか?

(上田先生)三つあると考えています。一つは、フットボールひいてはスポーツ界全体の発展を進めているという点。プレーヤーだけでなく、指導者やマネジメント層も含む関係者に、グローバルな視点でその競技について考えるきっかけとなっています。二つ目は、若い世代に「どこでもプレーするチャンスがある」「自分にもチャンレジできる」という勇気を与えている点です。

そして三つ目は、日本人選手の活躍が、国家としての日本のプレゼンス向上につながるという点。特に近年は、従来日本人が苦手としてきた言葉の壁を超えて、自分自身の考えを“主張”しながら、周囲とのコミュニケーションを取れる選手が増えています。とりわけ本田圭佑選手は、移籍先のチームだけでなく、日本人に与えたインパクトも大きかったと思います。海外では当たり前のことなんですけどね。

日本人選手のこのような変化は、仲間を尊ぶ姿勢や場の空気を読んでチームに最大限の効果をもたらす力といった、これまでも評価されていた日本人の美徳を再認識させるきっかけとなり、結果的に日本のプレゼンス向上につながるのではないでしょうか。

ありたい姿を明確に描くこと

(編集部)日本人選手が海外で活躍するためにはどのような資質が必要でしょうか?

(上田先生)一般的には、チャレンジ精神や失敗を恐れない姿勢などをイメージされるかもしれませんね。もちろんそれらも大切なのですが、私は「未来の自分がどうありたいか」を明確に思い描けるかが重要だと考えます。自己主張の激しいチームメートに囲まれて、全てを実直に受け入れていては、精神的に疲弊してしまいます。他者と比較するのではなく、自分のありたい姿に向かって研鑽を積めるような選手が適しているでしょう。

先ほど自己主張できる選手が増えてきたとお話ししましたが、主張には責任が伴うものです。チーム内で自分に期待されている役割を理解し、能力を発揮するための「感性の鋭さ」は欠かせません。

また、異なる歴史的背景や宗教、民族性をもつ選手がひしめく海外で、チームに貢献し、さらにファンの応援を得る選手になるには「教養の高さ」も重要です。異文化への知識を身に付けるという意味もありますが、価値観やバックボーンの違いを感じ取り、お互いの力を掛け合わせて最大限にする力ともいえます。これができなければ、どれだけ良いプレーをしても、チームや地域に受け入れられず、成功にはつながりません。そうした意味で、私が直接関わった本田圭佑選手や吉田麻也選手などは、10代半ばからすでに海外でも通用する資質を持っていました。

グローカル(グローバル+ローカル)で考えるスポーツ界

スポーツ界のマクロとミクロ
上田先生が会長・監督を務める京都のアマチュアクラブ「AS.ラランジャ京都」(提供:AS.Laranja Kyoto)

自分だけの可能性を見出せ

(編集部)上田先生は、社会学の観点からスポーツを研究されていますが、グローバル視点でスポーツをとらえることの最も重要な意味とは、どのような点にあるのでしょうか。

(上田先生)外国人選手との体格差には、競技にかかわらず多くの日本人選手が悩まされてきました。ただ、身体の大きな選手が優位な時代は長くは続かないと思います。体格の小さな選手が頭脳プレーで勝るといった事実はたくさんありますし、最終的には空間での感性やレジリエンス能力が決め手になります。

さらに現在は、世界中どこにいてもオンタイムでスポーツを観戦でき、外国人選手のプレーを知ることができます。彼らと同じプレーをただ目指すのではなく、「このチームには何が足りないか?」「自分なら何ができるか?」という「バーチャルでありながらリアルな思考」を持つことで、自分自身の可能性が広がるはずです。これこそ、ローカルな現実がグローバルな意味を持つという、現代スポーツの意味ではないでしょうか。

人生のなかのスポーツを考える

(編集部)上田先生は、ヨーロッパでの滞在や日本サッカー協会、Jリーグのクラブなどでの長年に渡る指導やチームマネジメント経験を持ちながら、現在はAS.ラランジャ京都という子どもから大人までの会員を持ち、トップチーム(社会人)は関西サッカーリーグにも参加しているアマチュアクラブの会長兼監督でもあります。海外リーグと地域リーグという、一見対局にある環境でサッカーに携わる理由は何でしょう?

(上田先生)地域リーグというと、土地や人とのつながりといった限定された「ヨコ」の広がりを連想させますが、世界で活躍するプロ選手の原点であり、国内プロチーム、さらにアマチュアチームという「タテ」のつながりの一部でもあります。

海外のトップリーグのような華やかな舞台は、ごく限られた選手にのみ開かれた氷山の一角でしかありません。スポーツ選手が現役として活躍できる時間は短い上に、さまざまな理由で若くして引退を余儀なくされることもあります。今の日本には、その先の人生の選択肢が少ないのです。だからこそ私は、職業も経歴もまちまちな大人たちが真剣にプレーを楽しめる、あるいはプレーをしながら新たなライフコースができるような包括的な空間づくりがしたいと考えています。

アフターコロナのスポーツのあり方

アフターコロナのスポーツのあり方
(写真:PIXTA)

コロナ禍にみた「スポーツとは何か」

(編集部)今回のコロナ禍においてスポーツへの気づきはありましたか?

(上田先生)自粛期間中、テレビでは、競技を問わず過去の試合が連日放送されていましたね。スポーツ(観戦)の魅力は「非日常性」や「非再現性」そして「不確定性」であり、すでに結果が出ているにもかかわらず見入ってしまった人は多いでしょう。「スポーツが秘める不思議な力」に驚かされると同時に、改めて私たちにとって「スポーツとは何か」を考える良い機会になったと思います。それは、選手やチームスタッフだけでなく、スポーツビジネス関係者、ファンも含む世界の人々が感じていることではないでしょうか。

危機ではなくチャンス

(編集部)コロナの影響でオリンピックが延期になり、海外への道も停滞する今、スポーツ界において危惧されることはありますか?

(上田先生)もちろん、スポーツビジネスのあり方は大きく変わらざるを得ないと思います。経済的な損失も生まれていますが、一つ一つの試合の価値はむしろ高まっています。新たなテクノロジーやそれを用いたビジネス手法が模索されることで、ファンにとっては、より興奮と熱狂もたらし、日常の人生を豊かにするようなスポーツ体験ができるようになるのではないでしょうか。同時に、スポーツをする人々(選手含む)に対する価値も見直されるべきだと思います。

また、選手個人だけでなく指導者やスタッフにとって、これまで以上に海外進出する意味は大きくなると感じています。サッカーに関して言えば、アジア諸国へと活躍の場がさらに拡がるでしょう。実際に、日本人指導者がアジア諸国に進出する例は少なくありません。現状では、欧州や南米を中心に、選手が挑戦者として進出するケースが多いですが、今後はクラブやチームの戦略決定者や指揮官としてアジアにも進出することは、多様な視点からも日本のプレゼンス向上につながる価値あるチャレンジです。サッカー、スポーツ界の発展のためにも期待したいですね。

まとめ

コロナの影響で、学校の部活動からオリンピックまで、多くのスポーツが制限されています。そんな今こそ「スポーツとは何か」を見つめ直すとともに、これからチャレンジする若い世代にとっても、スポーツとどのように関わり、自分の可能性を見出すかを広い視野をもって考えるきっかけとなれば良いですね。

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プロフィール

上田 滋夢

上田 滋夢 (うえだ じむ) 追手門学院大学 社会学部 社会学科 教授専門:社会学、スポーツガバナンス論、スポーツ戦略論、アスリート教育論

大学在学中に英国へ渡る。帰国後、京都教育大学サッカー部ヘッドコーチ、アビスパ福岡・育成普及部ヘッドコーチ、中京大学サッカー部ヘッドコーチなどの指導者を歴任。
そのほか、日本サッカー協会の強化委員会委員やアビスパ福岡・育成普及部チーフマネジャー、ヴィッセル神戸の強化部長補佐、名古屋グランパスエイトのテクニカルディレクターなど、組織の戦略を決定・執行する重要ポストを経て、現在はAS.ラランジャ京都の会長兼監督も務める。
2016年〜 追手門学院大学大学院 文学研究科(現:現代社会文化研究科)社会学専攻 教授
2016年7月   スポーツ産業学会政策提言コンペ 会長賞(藤本淳也・上田滋夢・林恒宏)
2018年4月〜  一般社団法人 大学スポーツコンソーシアムKANSAI 理事
2018年7月〜2019年2月 日本版NCAA設立準備委員会 有識者委員(スポーツ庁)
2019年3月〜  一般社団法人 大学スポーツ協会 デュアルキャリア部会員
主な著書に、『図とイラストでまなぶ新しいスポーツマネジメント』(2016)山下秋二・中西純司・松岡宏高編著, 「第8章プロスポーツのガバナンス」,大修館書店
『スポーツ戦略論』(2017)上田滋夢・堀野博幸・松山博明編著,「第1講 戦略の系譜による問題の提起」,「第2講 『スポーツにおける戦略』の系譜と概念の整理」,「第9講アマチュア組織における戦略の系譜(共著:宮川淑人,上田滋夢)」,「第12講 陸上競技という複合種目の戦略(共著:瀧谷賢司,上田滋夢)」,「第18講 実体論としてのスポーツ戦略」,大修館書店
『大学スポーツの新展開−日本版NCAA創設と関西からの挑戦-』(2018)大学スポーツコンソーシアムKANSAI編(編著:伊坂忠夫,上田滋夢ほか),「Chapter3大学スポーツのガバナンス;01.トップ層の理解に向けて,04.学生連盟・競技団体との連携,05.大学スポーツのガバナンスの課題」,「Chapter5学生スポーツの指導者;03.教育機関の指導者に求められる共通スキル」,晃洋書房
『スポーツガバナンスとマネジメント』(2018),相原正道,上田滋夢,武田丈太郎著,「2.スポーツのガバナンスとはなにか?」,晃洋書房
『スポーツSDGs概論』(2020), 神谷和義・林恒宏・小倉哲也編著,「第15章 国際スポーツ競技団体とスポーツSDGs」,学術研究出版.
『スポーツビジネスのキャズム』(2021年3月出版予定) アリーナスポーツ協議会編,「第3章 日本のスポーツに潜むキャズム」,晃洋書房

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追手門学院 広報課

電話:072-641-9590

メール:koho@otemon.ac.jp