Jリーグ開幕延期と選手のモチベーション。「連敗の救世主」の元監督が語るメンタルトレーニングとは。

追手門学院大学 社会学部松山 博明

Jリーグ開幕延期と選手のモチベーション。「連敗の救世主」の元監督が語るメンタルトレーニングとは。
大分トリニータの指導者時代に選手たちと記念撮影する松山博明教授(前列左から4人目)

新型コロナウイルスの影響で2月下旬から中断が続くJリーグ。政府からの緊急事態宣言も解除され、再開の日程が決定しました。大幅にシーズンの開幕が遅れましたが、選手はどのようにモチベーションを維持しているのでしょうか。

今回はヴィッセル神戸や大分トリニータでチームを指揮し、敗色が濃く低迷するチームを蘇らせ、サッカー不毛の地といわれたブータン王国にサッカー文化を根付かせ代表監督も務めた、社会学部の松山博明先生に話を聞きました。

開幕延期が選手のモチベーションに及ぼすもの

開幕延期が選手のモチベーションに及ぼすもの
ヴィッセル神戸の指導者時代にチームを指揮する松山博明教授

サッカー指導者・松山博明といえば

(編集部)松山先生といえば、2004年のJ1・ヴィッセル神戸時代に、監督人事で低迷するチームの指導を急遽任されたにもかからず5勝をあげられたことが大変印象的です。さらに、2009年のJ1・大分トリニータ時代には、14連敗中のチームを1試合だけ暫定監督の立場で指揮をし、見事勝利しました。「連敗の救世主」ともいえそうなのですが、今、振り返ってみていかがですか?

(松山先生)ヴィッセル神戸時代は、天皇杯にも出場し4回戦まで進みました。Jリーグのプロチーム指導者時代は本当にめまぐるしい日々でした。この時は勝つという目標に向かっていかにモチベーションを高めるかが重要でした。今のように新型コロナの影響に伴う開幕延期によるモチベーションの維持には、目標設定がカギになりますね。

目標設定ができない中で

(編集部)今のJリーグやプロ野球など開幕延期による選手の心理状況、モチベーションなどの影響はいかがでしょうか?

(松山先生)この大幅なシーズン開幕の延期は、選手のモチベーションや目標設定に大きな影響を与えたと思います。

通常選手たちは1月頃から3月の開幕に照準を合わせ、準備を始めます。しかし、緊急事態宣言が発令され開幕の目途が立たなくなった。これはつまり、明確な目標設定ができなくなってしまったということです。その中で自分のモチベーションを維持するのはとても難しいこと。照準を合わせることができないまま、闇雲に練習をすることになりますからね。

しかし、6月27日からのJ2リーグ・J3リーグ開幕を皮切りに、J1リーグは7月4日からリスタートが決定しました。そこに照準を再設定することで、選手たちのモチベーションはグッと上がるのではないかと考えています。

プロの選手である以上、予測できない事態というのはよくあること。例えば台風や地震などの災害によって予定が変更になることは今までもあったので、今は目標を再設定しながら調整していく段階だと思います。野球の選手も同様です。

無観客試合は選手のプレーに影響する?

(編集部)開幕からしばらくの期間は、無観客試合が予想されます。これによる選手への影響はあるのでしょうか?

(松山先生)サポーターの力というのは選手のパフォーマンスを向上させますから、この無観客試合の実施は、選手たちに大きな影響を与えるでしょう。

「アウェイの地で指揮をとる監督はディフェンシブな戦略を組むことがある」、「審判においてもサポーターの声援によって無意識にホームチームにジャッジが傾くことがある」と、研究結果として出ているんです。やはり選手は、間近に応援してくれるサポーターがいなかった場合、特にホームチームの場合はプラスαの力が加わらないことになるので、無観客試合は大きな影響を与えると思います。

連敗チームを大きく変えたメンタルケア

連敗チームを大きく変えたメンタルケア
(写真:PIXTA)

初心にかえるための練習

(編集部)冒頭で紹介しましたが、先生は大分トリニータ時代に急遽登板した代理監督でありながら、浦和レッズに勝利し14連敗をストップさせました。指導をする中で、どのようなことを行ったのでしょうか?

(松山先生)技術的なところでいうと、ボールを止めて蹴るというパスの精度などの基本的な動作から見直しました。できているようでできていないことが実際には多々あるのです。そうした基本的な技術部分や戦術を、一から練り直そうと思いました。

監督がすべきことには、大きく3つあります。一つ目は、戦術を選手にしっかりと伝え、引導していくこと。二つ目は、ベストなメンバーを組めるよう選手のコンディションをコントロールすること。三つ目はモチベーションを向上させること。私が代理監督を受けてから次の試合までに与えられた時間はたったの5日間でした。勝利を短期的につかむためには、モチベーションの部分を大きく変える必要があったので、そこを集中的に実施しました。

まずチーム内には、自分はレギュラーで出場できると思っている選手と、自分はスタメンで出ることはできないと思っている選手がいました。これがマンネリ化に繋がっていると考え、もう一度その部分を見直し、全員に出場のチャンスを与え、競争の原理を復活させました。

この時の大分トリニータは、前年度の2008年にナビスコカップ(現在のYBCルヴァンカップ)で優勝したことから、「自分たちは上手い」「負けるわけない」という、自信ではなく過信になってしまっていました。プロの世界では、そういった油断を突かれてしまうことがよくあります。そのため、初心にかえるための一種のメンタルトレーニングとして、基礎の練習やスターティングメンバーの見直しを行いました。

暗示をかけモチベーションを上げる

(編集部)心理学的な観点から効果のあったメンタルトレーニングは実施されましたか?

(松山先生)心理学には「ピグマリオン効果」というものがあります。これはメンタルトレーニングに応用できたと感じています。

ピグマリオン効果とはつまり、暗示をかけることです。「君はできる。絶対できる。」と何回も言い聞かせる。そうすると、選手はだんだんと本当に自信が湧いてきます。実際に試合が始まってピッチで活躍することもあります。

ただし、そこには必ずエビデンスが必要で、色々なデータを調べながら暗示をかけます。先ほど話した大分トリニータで代理監督を務めた浦和レッズ戦では、「浦和レッズが、大分トリニータのホームでは5年間勝ったことがない」というエビデンスを用いました。自分たちがなぜこの試合に勝てる可能性があるのかという理由を付随させるためです。そうすることで選手たちの士気が上がり、結果的に勝利することができました。このピグマリオン効果はスポーツ選手だけでなく、日常生活でも取り入れることができますよ。

日常生活で使えるメンタルトレーニングとは?

日常生活で使えるメンタルトレーニングとは?
(写真:PIXTA)

スポーツチームは社会の縮図!?

(編集部)社会人や学生のモチベーション維持に、アスリートと通じるところはありますか?

(松山先生)はい。ほとんど同じだと私は考えています。

企業では、スポーツの世界でいう監督が社長、ヘッドコーチが部長と置き換えることができると思います。ある意味、スポーツチームの中には社会の縮図があると思うんです。チーム力を構築するという意味では、スポーツの世界だけではなく企業や会社で働く人もアスリートと同じようなメンタルケアをする必要があると思います。

モチベーションを維持するために必要なものは、明確な目標設定です。長期的、中期的、短期的と、段階的に目標設定を行うことも効果的だと思います。そして、この目標には、会社としての目標に加え、個々の目標を持つことが非常に重要です。スポーツ選手は、自分に与えられたポジションでどのような動きをしてチームに貢献するかを考えますが、社会人も同様に、自分に割り振られた仕事をどう完遂するかを考えることが大切です。

また、指導する立場の人間も、部下や後輩にやりがいを見つけてもらえるよう、できなさそうでできるレベルの仕事を与えることでパフォーマンスが向上します。あまりにも高すぎる目標だと、モチベーションをかえって失わせてしまうことがあります。このように目標設定をコントロールすることによって、スポーツ選手だけではなく、社会人でも学生でも一人ひとりのモチベーションを上げることが可能です。

それからもう一つメンタルケアに必要な要素は、挑戦している人を信じてあげることです。自分が相手を信じないと、相手も自分のことを信じてくれません。相手を信じて仕事を任せてあげることも、モチベーションアップに繋がります。

ポジティブな姿勢でいること

(編集部)私たちにもできる、メンタルトレーニングの方法を教えてください。

(松山先生)常にポジティブな言葉を口に出すようにすること、ネガティブな言葉をできるだけ発しないことを心がけてください。

「自分にできるのだろうか」とマイナスの方向に考えてしまうのではなく、「自分は絶対にできる」と信じ込むことが大切です。これを心理学では、「セルフトーク」といいます。

このほか、「姿勢」もモチベーションに大きく影響します。暗い気分で下を向いている人間には幸福が訪れにくいので、つねに前を向きながら顔を上げ、ポジティブな姿勢を保ちましょう。堂々としている姿勢を意識すると、不思議なことに良いことが舞い込んでくるのです。

少し精神論のような話になりましたが、心理学という学問として実証されています。コロナで少し閉塞的な世の中になっていますが、以上を踏まえて心も体も健康に過ごしてください。

まとめ

わずか5日間という短い期間の中で選手のモチベーションを底上げし、連敗をストップさせた松山先生。明確な目標設定や自分自身を信じ行動することで、日ごろから健全なメンタルで過ごせるようです。新型コロナの影響で私たちの生活は大きく変化し、ストレスを感じている人も多いかと思いますが、しっかりと自分のメンタルをケアして、毎日を過ごしていきたいですね。

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プロフィール

松山 博明

松山 博明 (まつやま ひろあき) 追手門学院大学 社会学部 社会学科 教授専門:スポーツ科学、スポーツ心理学、コーチング学

大阪体育大学 スポーツ科学研究科 スポーツ心理学 博士課程修了
山城高校で全国高等学校サッカー選手権大会で得点王に輝き、早稲田大学教育学部へ進学。 卒業後、古河電気工業サッカー部に入社。以来フジタ工業を経てベルマーレ平塚、東芝、コンサドーレ札幌でプレー。
指導者としては、ベガルタ仙台でジュニアユース監督、ヴィッセル神戸 監督代行を歴任。 2006年〜 大分トリニータ強化部強化担当に就任。チームの暫定監督としても活躍。
2010年~ ブータン王国 代表チーム監督兼アカデミーヘッドコーチ
2018年〜 追手門学院大学 社会学部 社会学科 教授
主な著書に『スポーツ戦略論』(2017年)、『新・スポーツ心理学』(2015年)など

研究略歴・著書・論文等詳しくはこちら

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追手門学院 広報課

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メール:koho@otemon.ac.jp